研究課題
世界的な結核菌ゲノム情報の蓄積により、結核菌亜系統分類は、より詳細かつ高精度になった。本研究では、結核菌のゲノム情報に基づく亜系統分類、ゲノムクラスターを指標とした感染伝播、および患者背景(年齢、性別、出生国)を包括的に解析し、「菌側の因子は結核菌感染後の発病様式に影響を及ぼすのか?すなわち、長期休眠指向型の菌株と感染伝播指向型の菌株が存在するか」という学問的「問い」への解を求めるものである。長期休眠指向型の菌株と感染伝播指向型の菌株が存在するのであれば、前者はクラスター形成しない高齢者(75歳以上)に、後者は、クラスター形成群に顕著に出現するという仮説のもと、地域内のほぼすべての結核患者分離株をカバーするサンプルセットを用いて、菌側因子の影響を亜系統分類と感染伝播頻度で検証している。現在までの解析により、北京型株祖先型の亜系統群の一つであるL2.2.Aが75歳以上の高齢者で有意に多く、クラスター形成率は低く、なおかつ、ゲノム系統樹上での末端枝長が長いという「長期休眠指向型」の特徴を持つことが分かった。一方で、後期高齢者(75歳以上)と非高齢者(65歳未満)に広く分布し、かつ、クラスター形成率が有意に高い亜系統群の存在が見いだされている。世代を超えた感染伝播を反映していることから、感染後速やかに発病する傾向が高い、すなわち「感染伝播指向型」の遺伝系統を示唆しているものと思われる。今後、さらに、クラスター形成菌株群を精査することにより、感染伝播指向型の亜系統群の存在を追求したい。
3: やや遅れている
新型コロナ感染症対応業務の負荷が大きく、分離菌株のゲノム解析が遅延したため。
地域内で分離された結核菌のゲノム情報の集積を進め、より大規模なサンプルセットでの比較ゲノム解析を行う。これにより、精密な亜系統分類が可能になり、遺伝的背景の違いがもたらす発病様式の違いを解明できるものと期待している。
新型コロナ対応業務のため、全体的に研究計画が遅延しており、物品費、旅費ともに当初予定通りの執行にはならなかった。今後は、未実施のゲノム解析や研究成果の学会発表、論文発表を行い、適正に予算を執行する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Infection, Genetics and Evolution
巻: 114 ページ: 105495~105495
10.1016/j.meegid.2023.105495