研究課題/領域番号 |
21K10444
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
谷村 晋 三重大学, 医学系研究科, 教授 (60325678)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 飲料水 / 硬度 / 循環器疾患 / 空間疫学 |
研究実績の概要 |
飲料水の硬度が高いと循環器疾患死亡を予防するというエビデンスがあるが、疫学研究によって正負が反転するさまざまな結果が報告されている。WHO飲料水水質ガイドライン(2011)では「心血管死亡率に対するマグネシウムや硬度の予防効果について疫学研究に基づくエビデンスが複数存在するが、これらのエビデンスについては議論があり、因果関係が示されていない。さらなる研究が進行中である。」と記載されており、現時点の文献調査からも、循環器疾患死亡と水道水硬度の関連は、現時点でもなお未だに未決着の学術的な課題である。 本研究では、この未決着の課題に対する解決に資するために、水道水の硬度に着目し、そこから飲料水の硬度を推定する方法を開発し、推定した曝露量と循環器疾患死亡の間について、空間疫学手法を用いて検討を行う。 本研究における最大の難所は、妥当な曝露量の推定であり、そのためには、浄水場ごとの水道水の平均硬度を配水地域住民に割り付ける処理と、集計地理単位が異なるミネラルウォーターなどの消費量との統合化を通じて妥当な推定曝露量を得る必要がある。初年度は、飲料水の硬度における曝露量の推定方法の開発を検討した。想定よりも作業の難易度が高く、簡便な方法で代替するなど妥協が必要になった。今後は、曝露の推定方法の完成度を高め、推定された平均飲料水硬度を用いて、循環器疾患死亡との関連を空間疫学的モデリング(市区町村単位の生態学的研究デザイン)により検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我が国では約8千の浄水施設があり、水道統計では浄水場ごとに浄水場出口水の年平均の硬度が公表されている。今年度は、それぞれの給水地域人口を推計し、その人口から算出した1人あたりの1日平均給水量で重み付けを行って算出した年平均硬度を市区町村に按分する作業を行った。しかし、浄水場の中には給水地域の境界が不明である地域も少なくなく、圏内人口を推定することが困難であった。1つの解決策としてボロノイ分割手法が考えられるが、その妥当性の検証を行っている途中である。作業の難易度が想定よりも高かったため、当初の研究計画よりも遅れている。加えて、ミネラルウォーター消費量について市区町村境界を超えた購買行動のモデリングの問題、ミネラルウォーターの平均硬度の決定の妥当性の問題など、研究結果の妥当性に関わる課題がまだ解決していない。
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今後の研究の推進方策 |
飲料水の硬度における曝露量推定法は、ある程度の完成度になれば、時間的制約もあるため「研究の限界」に分類する事項を決めて妥協を行う。その後、市区町村ごとに推定された飲料水の年平均硬度を用いて、アウトカムである循環器疾患死亡との関連を空間疫学的手法を用いて統計モデルの検討を行う。具体的には、(1)空間重み付け行列の開発、(2)時間ラグ効果の有無の確認、(3) 交絡因子・修飾因子の確認、(4)複数の分析手法と統計モデルによる検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界規模の深刻な半導体不足によりワークステーションを含む一部の情報機器の購入を見送ったため、次年度使用額が生じている。APCを含む成果発表に使用する予定である。
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