本研究の目的は,社会環境の整備によって健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目指す社会的背景を踏まえて,健康の社会的決定要因のなかでも,個人の健康関連行動にはどのスケールの地域特性が関連しているのかを明らかにすることである。①地理学における地域,マルチスケール概念の応用,②地域特性の指標化における地理情報科学の分析手法の適応,③マルチレベルモデルを用いた地域の重層性に対する定量的アプローチの3点を組み合わせて課題に取り組む。 最終年度となる2023年度は,研究実施における倫理面での不足部分についての対応策が完了したのちに,データ入手に至った。先ず,個人の健康について,ロコモ25,2ステップテスト,立ち上がりテストによるロコモティブシンドローム評価,自記式質問紙調査結果から運動習慣,健康関連QOL評価(SF-36),うつ病(抑うつ状態)自己評価尺度(CES-D),社会的孤立スクリーニング尺度(LSNS-6),日常の生活時間を算出した。次に,地域の社会経済的特性として,2015年国勢調査から,研究対象地域全域の第4次(約500m四方)メッシュデータを用いて,年齢構成,世帯構成,居住年数,労働力状態,就業等に関する情報に基づく階層的クラスタリングを行った。最後に,これらの関係を検討するため,健診参加者の居住地情報に基づき,個人データに地域特性を連結させ,分散分析,カイ二乗検定,多変量解析を実施した。これらの結果に基づき,個人の健康関連行動はクラスタ間において有意に異なるかどうかを検討した。 研究対象とした特定の地域においても地域特性は一様ではないことが示され,個人の健康および健康関連行動に影響をおよぼす要因の一つとして居住している地域の社会経済的環境特性があることが示唆された。
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