本研究の目的は、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)および大規模ゲノムコホートデータを用い、メンデルのランダム化法(MR法)などの因果推論手法を適用して、糖尿病治療薬とがんリスクの関連を明らかにすることである。 研究期間中、他国の研究グループからの報告により、チアゾリジン薬の標的であるPPARGが前立腺がんのリスク上昇と関連するが、スルホニル尿素薬の標的であるABCC8やGLP1受容体作動薬の標的であるGLP1-Rはいずれのがんリスクとも関連しないことが示された。しかし、薬剤標的MRの方法論には制約が多く、より広範な遺伝領域の多型情報を活用する新たな方法が考案され、今後はその方法を採用して研究を進める予定である。 本研究班では、MR法の方法論上の課題を克服するための検討を行った。特に、UK biobankなどのone sampleデータを用いた研究が限定的であり、新たな方法論の開発が必要と考えた。2023年度には、適切でない操作変数が因果効果の推定にバイアスを与える問題に対して、negative control outcome(NCO)を使用する新しい方法を提案し、UK biobankのデータを用いて有効な操作変数の選択が可能であることを示した。 NDBについては、厚生労働省からのデータ受領が2023年度内に予定より遅れ、2024年4月1日付でデータを受領。今後、データの加工と分析を進める予定。本研究により、糖尿病治療薬とがんリスクの関連を総合的に評価し、がん予防に資するエビデンスを提供することを目指す。
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