これまでに最適化したLC-MS/MSの分離・分析条件を用いて、司法解剖の鑑定のための薬毒物スクリーニングを行いつつ、約800例のスキャンデータを蓄積した。 各事例の死因を一酸化炭素中毒、焼死、薬毒物中毒、海水溺水、淡水溺水、高所転落、頭部外傷、窒息(溺水を除く)、内因性急性心機能不全、青壮年突然死症候群(50歳以下)、偶発性低体温症、敗血症、骨折後数日での死亡に分類し、これらに当てはまらないものや複数の要因が競合すると考えられるものはその他とした。解析にはThermo Fisher Scientific社の低分子 LC-MS ソフトウェアCompound Discovererを用い、代謝物データベースを用いた網羅的解析を試みた。 一度に多くの事例を解析すると様々な要素が検出されて、死因との関係性が弱くなったことから、特定の死因について代表的な5例と対照5例とを比較する方法で、複数のグループを検討したところ、死因によって減少傾向または上昇傾向にあるいくつかの化合物が見出されたが、その特異性は完全なく、腐敗による影響の除去が大きな課題となった。ソフトを用いた網羅的解析では、ピークの認識等の問題から目視による確認が必須となり、効率的な改善点が多く課題となった。 本課題で確立した分析条件は、高極性化合物から低極性化合物まで幅広く保持・分離することができ、スキャンデータであることから事後に様々な解析が可能である。今後もデータを蓄積していくことで、新診断マーカー発見の重要な礎になると考えられる。
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