研究課題/領域番号 |
21K10518
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
永井 淳 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (00207961)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シングルセルゲノム解析 / 全ゲノム増幅 / 個人識別 / DNA型 / 乾燥混合血痕 / セルソーティング / 限界希釈法 |
研究実績の概要 |
現在の法医・鑑識科学分野では、単独試料からの個人識別は非常に高い精度を持って行うことが可能であるが、混合試料からの個人識別はソフトウェア等による統計学的手法を用いても困難な場合が多く、混合試料に関与した人物を確実に特定するための有効な方法は未だない。そこで本研究は、混合試料中の個々の細胞に着目し、シングルセルゲノミクス技術を利用して1個の細胞からDNA型を検出することにより、混合試料からの精度の高い個人識別法を開発することを目的して行う。今年度は、まずシングルセルゲノム解析の基盤となる、細胞のシングルセル化に関する手法の確立を目指した。 日本人ドナー3名から採取した血液を等量ずつ混和して作製した乾燥混合血痕を試料として用い、純水にて再水和した後、再水和試料中の白血球のシングルセル化を行った。単離された各白血球のDNAをREPLI-g Single Cell Kit(Qiagen)を用いて全ゲノム増幅法により増幅し、Identifiler Plusキット(ABI)を用いてSTR 15ローカスとアメロゲニンをPCR増幅した後、型判定を行い、各ドナーのDNA型との比較から個人を特定した。 シングルセル化には限界希釈(LD)法とフローサイトメーターによるセルソーティング(FCM)法を用い、本法における有効性を比較した。その結果、LD法では解析した30細胞中の20細胞(66.7%)において、FCM法では解析した40細胞中の36細胞(90.0%)において、それぞれ個人を特定することができ、FCM法はLD法に比べて個人特定率の点で優位であることがわかった。しかしながら、1個のシングルセルから正しく判定されたアレルの割合はFCM法でも最大で82.8%であり、いずれのシングルセルからもDNA型のフルプロファイルを得ることはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、シングルセルゲノム解析技術を用いて乾燥混合血痕から単離した個々の白血球のDNA型解析を行うための基礎的な手法を確立することができた。本法を適用することにより、乾燥混合血痕に関与した人物の特定が高い精度で可能であったが、いずれのシングルセルからもDNA型のフルプロファイルを得ることができず、1個のシングルセルから確実な個人特定を行うという点で問題が残った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、シングルセルゲノム解析は混合血痕からの個人識別において有用な手段となり得ることが示された。しかしながら、すべてのシングルセルでアレルが増幅されずに抜け落ちるアレルドロップアウトが認められ、1個のシングルセルからDNA型のフルプロファイルを得ることはできなかった。その原因のひとつとして、本法に用いたREPLI-gキットによる全ゲノム増幅法はランダムプライマーを利用した多重置換増幅であるため、アレルドロップアウトが生じやすいことがあげられる。それを回避するためにランダムプライマーを利用しないTruePrime Single Cell WGA Kit(4basebio)による全ゲノム増幅を試みたが、アレルの検出率自体が著しく低く、REPLI-gキットの代替とはならなかった。そこで、アレルドロップアウトの生じたシングルセルからDNA型フルプロファイルを得るために、ドナーのDNA型との比較から個人特定が可能であった複数のシングルセルについて、アレルごとに検出ピーク高の値を合計し、それを基にドナーのDNA型プロファイリングを行う手法を新たに考案し実施したところ、良好な結果が得られた。今後はこの手法を用いて、ドナーのDNA型が未知の試料についてシングルセルゲノム解析によるDNA型プロファイリングを行う予定である。また、セルソーターを用いてシングルセル化する際の細胞標識として、現在、ヒトT細胞に発現するCD3に対する抗体を使用しているが、ヒト汎用白血球抗原であるCD45に対する抗体やヒトB細胞に発現するCD19に対する抗体を用いた場合の個人特定の有効性についても評価する。併せて、当初の計画通りに、アポトーシスによるDNA断片化以前の白血球や口腔粘膜細胞をセルソーターにて選択的に分取する手法についての検討も進める。
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