現在の法医・鑑識科学分野では、単独試料からの個人識別は非常に高い精度を持って行うことが可能であるが、混合試料からの個人識別はソフトウェア等による統計学的手法を用いても困難な場合が多く、混合試料に関与した人物を確実に特定するための有効な方法は未だない。そこで本研究では、混合試料中の個々の細胞に着目し、全ゲノム増幅(WGA)法を含むシングルセルゲノミクス技術を利用して1個の細胞からDNA型を検出することにより、混合試料からの精度の高い個人識別法を開発することを目的とした。 昨年度までに、乾燥混合血痕から単離した個々の白血球のDNA型解析を行うために必要となる基礎的手法について検討し、フローサイトメーターによるセルソーティング法を用い白血球を単離する際の細胞標識には、ヒト汎白血球抗原CD45に対する抗CD45抗体よりも主にヒトT細胞に発現するCD3に対する抗CD3抗体の方が本研究には有用であることを明らかにした。また、WGA法において生じやすいアレル・ドロップアウトによりDNA型フルプロファイルが得られない問題点を解決するために、シングルセルゲノム解析による個々の白血球の型判定結果を複数組み合わせる「重ね合わせ法」と、解析に用いたWGA産物の残余を混合する「WGA産物混合法」を考案し本研究に適用したところ、どちらの方法を用いてもDNA型フルプロファイルが得られ、さらに両手法が関与者のDNA型が未知の混合血痕にも利用可能であることを実証できた。 最終年度となる本年度は、より客観的に関与者を識別するために、上述の手法に加え、主成分分析を用いたシングルセルゲノム解析法について主に検討した。その結果、男女混合血痕、男性混合血痕のみならず、DNA型が近似しているために識別が困難と考えられた母子の混合血痕においても容易に個々の関与者を特定することができた。
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