研究課題/領域番号 |
21K10528
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
粕田 承吾 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70434941)
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研究分担者 |
勇井 克也 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50783875)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 組織因子 / 単球 / スズラン毒 / コンバラトキシン |
研究実績の概要 |
スズラン毒convallatoxin(CTX)が主要な血液凝固因子である組織因子(tissue factor ; TF)産生を誘導するという仮説のもとに実験を行っている。 健常成人より採取したクエン酸加全血にCTXを添加し、CTXは濃度依存性に血漿中のtissue factor endo-vesicles (TF-EV)を増加させることを確認した。 ヒト血液中のTFの主要な産生細胞は単球と考えられることから、ヒト単球系のcell lineであるTHP-1細胞を使用してCTXの単球に及ぼす影響を検討した。CTXの投与によりTHP-1の培養上清中にもTF-EVが増加することが確認できた。さらに、CTXによるTF-EV産生は、MEK阻害剤であるPD98059により抑制された。このことからCTXによるTF産生はMAPK経路を介していることが示唆された。実際にCTXの添加により、THP-1のMAPKのリン酸化が亢進すること、およびPD98059の添加によりMAPKのリン酸化が阻害されることが、western blotにより確認できている。 また、THP-1におけるTFのmRNA産生をリアルタイムPCRで評価したところ、CTXによりmRNA産生が増大していた。このことからCTXによるTF産生増大は、刺激による貯留TFの放出ではなく、de novo合成がなされているが明らかとなった。 以上のことから、in vitroおよびex vivoの実験では、CTXが確かにTF産生を誘導することが確認できたが、マウスを用いた実験では現在のところ思うような結果が得られていない。凝固亢進の指標であるthrombin-antithrombin complex (TAT)やPF1+2などの上昇がCTX投与マウスにおいて確認できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト血液や培養細胞を用いた実験では期待通り、CTXがTFを誘導するという結果が得られている。しかし、マウスを用いた実験では明らかに凝固が亢進しているという知見は得られなかった。ヒトと違い、マウスのTF-EVを測定する方法は確立されておらず、直接マウス血液中でのTF産生の増加を確認することができないことが、マウス実験の限界であると考えられる。また、CTXに対する感受性がヒトとマウスでは極端に違うことが知られている。これまで行ったマウス実験では、マウス実験に最適なCTXの投与量投与方法を決定するのに非常な困難を要した。経口では全く影響なく、静脈注射では瞬時に死亡してしまった。現在、投与方法は皮下注射であり、濃度は1 mg/kgで使用している。これでマウスの体重減少効果が認められているが、凝固系に影響を及ぼすとの確証が得られておらず、予定通りに進捗しているとは言い難い。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの血液を用いた実験を深化させる予定である。rotation thromboelastmetry (ROTEM)を使用して全血凝固能の評価を行う予定である。また、TATやPF1+2の測定もヒトの血液を用いて行う予定である。さらにneutrophil extracellular traps (NETs)に関する観察も進めていきたい。また、凝血栓形成に重要なかかわりを持つ血小板機能への関与についても解析を進めていきたいと考えている。 マウス実験に関しても、NETs形成に及ぼす影響を中心にしていく予定である。NETsの主要構成因子であるcell free DNA (cfDNA)はマウス血液でも測定可能であり、測定実績を有している。また、CTXは本来心臓毒性を有するものである。low-TFマウスと野生型マウスを用いて、TFの有無が心臓毒性に対してどのような影響を持つのかを解析する方向でも検討していきたい。
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