研究課題/領域番号 |
21K10537
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
山下 琢矢 和歌山県立医科大学, 薬学部, 講師 (10645203)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Exosome / 乱用薬物 |
研究実績の概要 |
現在、薬物依存症に対する根本的な治療法が存在しないのは、薬物の精神依存形成過程が極めて緻密で、核となるメカニズムが不明である事に起因する。これは薬物依存メカニズム研究の視点を従来までのモノアミンなど、既知分子から転換する必要がある事を示唆している。本研究では新たな切り口として、神経細胞 -グリア細胞間ネットワークで重要な役割を担う事が明らかになりつつあるExosomeを研究視点とし、薬物依存形成に薬物中毒状態で放出される神経細胞 -グリア細胞由来Exosomeが及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。昨年度は薬物暴露した神経細胞の培養上清から磁性ビーズを活用したアフィニティー生成により、精製したExosomeを用いて、基礎特性解析(①粒子径、② ゼータ電位、③脂肪酸分子種組成、④グリア細胞の増殖に及ぼす影響)を実施した。その結果、薬物暴露した神経細胞由来Exosomeでは①・②に関して、薬物暴露 しなかった神経細胞由来Exosomeと比較して、特筆すべき特徴は認められなかった。一方で、③・④では、アラキドン酸の発現上昇、ならびに、グリア細胞の細胞増殖抑制効果が認められた。 以上の結果を踏まえて、本年度は当初予定通り、乱用薬物を曝露させた神経細胞Exosomeを作用させたグリア細胞の炎症応答評価を実施した。グリア細胞から放出される炎症性サイトカインIL-6を定量した結果、IL-6量は神経興奮の機序を持つ薬物で増加し、抑制の機序を持つ薬物では減少した。さらにこの状態のグリア細胞から脂質を抽出し、遊離脂肪酸分子種をLC-MS/MS解析した結果、神経興奮の機序を持つ薬物を作用させた群でアラキドン酸の上昇とドコサヘキサエン酸の減少が認められた。さらに現在、覚醒剤・麻薬のみならず、新たに向精神薬も研究対象薬物に加えて、昨年度の再現性試験も実施しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は2021年度、神戸学院大学薬学部から、和歌山県立医科大学薬学部へ異動した。これにより、神戸学院大学薬学部の学生からの研究協力が得られなくなった。さらに和歌山県立医科大学薬学部は2021年度創設ということもあり、細胞培養や動物実験など、研究環境の整備に多くのエフォートを割くことになったため、昨年度は当初予定していた研究の一部しか実施できなかった。本年度も引き続きこの影響を受けており、当初想定していた計画よりもやや遅れている。しかしながら、これらの問題も時間経過とともに、徐々に解消しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画では、 2023年度:2022年度までの結果をもとに乱用薬物を曝露させた神経細胞Exosomeがシナプス可塑性に関連する細胞応答へ及ぼす影響を明らかにする。 を達成目標としている。研究計画調書を作成した当初はin vivoでのシナプス可塑性の評価を計画していたものの、大学異動による環境変化により、実験動物を用いての研究が困難な状況になった。それは「高額な動物飼育委託費用(40円/1ケージ/1日)の必要性」が判明したためである。そこで、急遽、in vitroでの研究へ切り替え対応している。シナプス可塑性を評価可能な指標として、グリア細胞(ラットC6細胞)におけるCa2+イオン増加反応、それに伴うD-セリンの放出、さらにはNMDA受容体増加という一連の細胞応答を連続的に解析する予定である。 しかしながら、上述した通り、本研究はマンパワー不足の発生により、やや当初計画より遅延している。その点、本年度より研究室スタッフ(研究補助員)を増員することができ、今後、遅れを取り戻せる体制になった。さらに、今年度後半から、学生配属がスタートし、新たなサポートを得られる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定よりも研究が遅れていることにより次年度使用額が生じている。今年度は遅れていた分の研究試薬購入や、外部委託費を計上する予定であり、当初想定した使用額に近くなると考えている。
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