前腕への安全な点滴注射のために、体表から触知できる骨の隆起や腱およびそれらを結ぶ仮想線を頼りに適切な穿刺部位を体表から推定する方法を考案することを目的として、献体遺体の前腕の橈側および背側における皮静脈と皮神経の位置関係を調べた。令和3年度は4体6上肢、令和4年度は3体6上肢、令和5年度は3体6上肢を対象に、回内位の前腕の橈側および背側の皮静脈と皮神経を精査した。体表の基準線には、上腕骨外側上顆と橈骨茎状突起を結ぶ線(LA)、上腕二頭筋腱外側縁と橈骨茎状突起を結ぶ線(PA)、上腕骨外側上顆と尺骨茎状突起を結ぶ線(DA)を採用した。 皮神経の走行をトレースした図と皮静脈の走行をトレースした図を重ね合わせると、皮神経は少ないが皮静脈がしている領域が明らかになった。そこで、次の3か所を安全に静脈穿刺が可能な部位として提案する。①肘窩の中央付近、②PA0%の位置(肘窩における上腕二頭筋腱の外側縁)とLA50%の位置を結ぶ線の周辺、③DA66%の位置とLA100%の位置を結ぶ線より遠位の領域。これらの部位には細めの皮静脈が多数みられるが、太い皮神経の枝は確認できなかったため、比較的安全に静脈穿刺が可能な部位と考えられる。 皮神経と皮静脈の位置関係について、回内位の場合と回外位(解剖学的正位)の場合とでどの程度異なるのかを、生体において超音波画像診断装置を用いて解析した。その結果、前腕の遠位半分辺りでは、体表の基準線に対する皮静脈の位置関係は回内位か回外位かに関わらずさほど変化しないことが明らかとなった。細い皮神経は超音波画像診断装置では確認できなかったが、ごく太い皮神経は皮静脈との位置関係が変化することはなかった。
|