研究実績の概要 |
採血や点滴時の血管確保に失敗しないためには、十分に血管を拡張させることが重要である。血管拡張を促進する看護技術の一つに温罨法があるが、温罨法がなぜ血管を拡張させるかというメカニズムは十分に検証されていない。そこで本研究では、血管拡張作用を持つことが生理学的に解明されているNOに焦点をあてて、温罨法が血中NOに与える影響を調査することを目的とした。 対象者に対して、5分間39~42℃の温罨法を非利き腕に行い、その前後に皮膚温度計とエコーを用いて皮膚温と血管断面積を測定した。また、NOを測定するために2 mLの採血を介入前後に行った。血液は実験後に速やかに遠心分離をして、Dojin NK08 NO2/NO3 Assay Kit-FX ~2,3-Diaminonaphthalene Kit~(DOIIN, Kumamoto, Japan)を用いて分析を行った。得られたデータは記述統計を行い、Wilcoxon signed-rank sum testを用いて介入前後の比較を行った。 介入前後の皮膚温は32.05℃から39.40℃に、血管断面積は12.2 mm2から13.8 mm2に有意に上昇した。一方で血中NOの中央値は12.45 μmol/Lから11.18 μmol/Lに有意に低下した。 血管は血管内皮細胞由来のNOが血管の中膜に作用することで拡張することが知られている。本研究で温罨法により血管断面積が有意に増加したのに対して、血液中のNOが低下したのは、血液中のNOが血管の中膜に作用し、消費された可能性があると研究者は考えた。この結果から、温罨法は血液中のNOを血管中膜に作用させることを促す効果があるのではないかという新たな仮説を導きだした。
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