研究課題/領域番号 |
21K10818
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
蝦名 康彦 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (90322809)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 産後うつ病 / 心理ネットワーク分析 / 周産期メンタルヘルス / 病態 / 個別的支援 |
研究実績の概要 |
当該年度は、まず産後うつ病の評価ツールであるエジンバラ産後うつ質問票(EPDS)を用いた産後女性の精神症状の心理ネットワーク分析を行った。この分析は、産後うつ病の発症に至る潜在的な連鎖や中核となる症状を明らかにすることを目的としており、前年度から続けている大規模データベース研究の延長線上に位置している。今年度は特に、定量的分析手法として「predictability(予測可能性)」や「Betweenness centrality(媒介中心性)」を新たに導入し、これらの指標を用いて症状間の相互作用などの重要性を定量化した。 分析結果から、EPDSを通じた産後うつ病の評価が、単なるスクリーニングツール以上のものであり、症状間の複雑な関連性を解明する有力な手段となり得ることを示すことができた。さらに、このネットワーク構造モデルを、臨床的事項や先行文献と照合することによって、モデルの臨床的な意義が深まり、具体的な介入プランの設計に役立てることが期待されている。 また、妊産婦に対する個別化した支援の探索のため、全国調査や多職種連携に関する検討を行い、それらの成果を国内外の学会で発表した。2023年6月から7月にかけて「統合失調症をもつ女性に対する産前・産後訪問看護に関する全国調査」を行った。同年1月には「産後うつ病に対する予防的介入に関する全国調査結果」を論文として発表し、同年4月には「妊産婦のメンタルヘルス支援における多職種連携」の重要性を探る研究結果を論文発表した。更に、2024年1月には「統合失調症を持つ妊産褥婦への支援方法に関する検討論文」を発表し、同年3月には香港で開催された2024 EAFONS(27th East Asian Forum of Nursing Scholars)で、子宮頸がんとHPVワクチンの認識に関する心理ネットワーク分析を用いた研究成果を講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた臨床現場での前向きデータ収集は,研究期間当初のCOVID-19感染拡大防止のため産科医療体制が大きく変化したため、2023年5月に5類感染症法に移行したものの、その後も医療機関の協力が得られない状況が続いており、抜本的な研究計画の見直しが求められた。そのため、大規模データベースのデータを用いて研究を実施したが、予測よりも解析項目が多数かつ多岐にわたり追加項目が増えている。また本件に関するネットワーク分析の論文も完成には至っていない。このように進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
期間延長が承認されたため、2024年度は下記の予定で研究を推進する。まず、大規模データベースを用いたネットワーク分析論文を完成させ投稿を完了する。また、この量的研究の知見を裏付ける目的で、新規に質的研究(産後の妊婦を対象にしたインタビュー研究)を行う。研究期間内に新規量的前向きデータを十分に収集することは困難であるが、質的データを組み合わせることでデータベースからの知見を補強することを目指す。 また、同様のデータベースを用いたEPDS以外の因子(ボンディングなど)を組み合わせて、新規ネットワーク分析も行う。産後の精神状況・病態をより広い視野でみることを目指す。 さらに、5月~7月にかけて「産後うつ予防を目的とした周産期の夫婦への支援に関する全国調査」を実施する。父親も含めた包括的なメンタルヘルス支援への具体的な提言を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗がやや遅れているため、事業期間の延長を申請し承認された。2024年度に予定している、追加の質的研究の実施、個別的支援に関する全国調査の実施、研究結果の学会発表および論文投稿に助成金を使用する予定である。
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