研究実績の概要 |
本年は、当初の計画通り高齢者を対象とした臨床実験を行った。実験では前年度の研究結果により、被験者に強い不快感を誘発する可能性のある2-ノネナール(当初計画)の代わりに、ボルニルアセテートをコントロールとして用いた。 年度前半に予備実験として健常者を対象に、ボルニルアセテートと1,8-シネオールの「微香」とする濃度を確定したのち、通常濃度で5分暴露した際の嗜好性とリラックス効果と覚醒効果、さらに微香で1時間暴露した際のリラックス効果と覚醒効果を調査した。これらの結果をもとに、年度後半に長崎市内の介護施設「のぞみの杜」(入居定員50人)の3つのユニットの40人の入居者(要介護度平均4.4、平均年齢89.9歳)を対象に、アロマペンダントとアロマステイックを用いた2週間の長期暴露による効果を調査した。被験者は、日中はアロマペンダントを装着し、夜間は枕元にアロマステイックを置くことで、終日微香に暴露された。実験の対象となった3つのユニットのうち、ユニット1では実験1 週目に終日1,8-シネオールを使用し、2 週目に夜間の香りをボルニルアセテートに変更した。ユニット2では1 週目にボルニルアセテートを併用し、2 週目は終日1,8-シネオールを使用した。ユニット3では、香りを曝露しない状態で同じ検証を行った。香りの効果は実験前後のMMSE、実験中の介護者による行動観察、眠りSCANによって評価した。 実験の結果、認知機能、睡眠状態は、1,8-シネオールのみを曝露した場合よりもボルニルアセテートを夜間に併用した場合の方が改善することが明らかになった。一方、この実験では1 名の介護者が1,8-シネオールの微香に過剰反応してくしゃみが止まらなくなった。健常者でも香りを感知しない程度の微香でも、過敏な人にはアレルギー反応を引き起こすことが明らかになり、公共空間でのアロマセラピーの危険性が示された。
|