研究課題/領域番号 |
21K11094
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
宇田川 孝子 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 事業化支援本部地域技術支援部食品技術センター, 副主任研究員 (10406671)
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研究分担者 |
山中 崇 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (50287405)
福井 郁子 帝京科学大学, 医療科学部, 講師 (50759842)
高橋 徹 金沢学院大学, 人間健康学部, 教授 (80324292)
澤田 康之 名古屋大学, 未来社会創造機構, 特任准教授 (90718355)
福田 久子 つくば国際大学, 医療保健学部, 講師(移行) (90861683)
海老名 慧 つくば国際大学, 医療保健学部, 助手(移行) (10861643)
上羽 瑠美 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (10597131)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 誤嚥性肺炎 / 食品の流体測定 / 食品の分離 / 摂食嚥下機能 / 高齢者の栄養管理 |
研究実績の概要 |
誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため食品を含めた咀嚼物等と一緒に細菌を誤って気管に流入することにより発症するものである。おもに、後期高齢者、嚥下機能の低下した高齢者、脳梗塞後遺症、パーキンソン病、寝たきりの患者で起こり、これらの患者は増加傾向にある。そのため誤嚥性肺炎も増加しており、年間死亡者数は10年後には現在の3倍以上となり、2030年に男性77,000人、女性52,000人程度まで増加すると予測され(東京都健康安全研究センター資料)、誤嚥性肺炎の予防は急務の課題である。 本研究では、誤嚥性肺炎を予防するため、食形態、とくに食品の流動性に着目し、非ニュートン流動(力を加えることによって粘度が変わるという物性)を示す増粘液体食品が嚥下に適正な状態にあることを評価する新しい流動性評価システムの構築と実際的適用を志向している。システムのコンセプトは、実際の医療・在宅現場での利用を念頭に置いて誤嚥性肺炎予防プログラム構築のために資するデータを現場で採取すること、無電源で連続測定が可能であること、取扱いが容易であることであり、合理的な評価法の確立を目指す。それらにより最終的に誤嚥性肺炎を予防する最適な食形態を導き出す。その延長線上には、誤嚥性肺炎予防プログラムの構築を見据えている。 本研究は3つの課題からなる。課題1)非ニュートン流動を示す増粘液体食品が嚥下可能な状態にあるかどうかを評価する新しい流動性評価装置の製作、および流動性評価システムの構築、課題2)流動性評価システムについての現場での実効性評価、課題3)誤嚥性肺炎が予防できる食形態の最適化である。 本年度は、課題1)非ニュートン流動を示す増粘液体食品が嚥下可能な状態にあるかどうかを評価する新しい流動性評価装置の製作、および流動性評価システムの構築にとりかかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、課題1)非ニュートン流動を示す増粘液体食品が嚥下可能な状態にあるかどうかを評価する新しい流動性評価装置の製作、および流動性評価システムの構築にとりかかった。課題1)の目的は、実際に増粘液体食品の流動を観察可能なシステムの構築を目指すものである。申請時当初の計画より、先行研究に吉田らの増粘液状食品の粘性を評価する測定器があるが、本研究では流動を物理的に見直し、粘度、降伏値、分離性を評価できる測定器を開発する。そして実際の消化管に近い環境を再現できる測定器を考案し、製作する。また得られた測定値から評価のシステムを構築していく。 まず、従来用いられてきたレオメータやテクスチャー・アナライザーなどのテクスチャー(物性)を測定する装置では、流動性の情報が乏しいという物理的問題点を確認した。テクスチャー・アナライザーは圧縮試験、引張試験に適し、一方、レオメータは粘弾測定に適する。これらの測定器は流動性も測定できるとされているものの、高齢者食のような食品ととろみ調整食品が混合した、いわゆる不均一な試料に対する測定には不向きであることが明らかとなった。そのため、本研究において流体力学の背景から大幅に改良を行っている。とくに食品の分離に注目し、液状部分と固体部分の流動速度の違いを流動面積から測定し、数値化できるような試作品を開発している。実際の消化管通過の状態により近くするため、測定装置にシリコンを用いて製作を行うことで他に類をみない流動性評価を目指し、早急の特許出願を検討している。そのため、本知見に関する研究発表などは、今年度は実施しなかった。 申請当初の計画では、本年度で測定器の開発および製作を終える計画であったが、新型コロナウイルスにより、中小企業である製作機器メーカーの工場が閉鎖したことで、遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はこのたび、嚥下機能メカニズムを解剖学的観点から研究され、さらに食品のテクスチャー評価の研究も行っている嚥下の専門家が新たに共同研究者として参画した。これにより嚥下のメカニズムについて、さらに盤石な体制となった。令和4年度は、嚥下を専門とする共同研究者、工学系の共同研究者や物性測定器を開発経験がある共同研究者、老年医学、高齢者看護、在宅看護の共同研究者から、開発している流動性測定器の試作品についての助言を得て、更なる改良を続けていく。とくに令和4年度は、流動測定器と液状粘性食品との摩擦について、研究代表者の所属する東京都立産業技術研究センター内で専門家がおり、この研究者より協力を得られることで、摩擦についての検討も行い、さらなる品質向上に努めていく。これをもとに令和4年度は、流動性測定器についての特許出願の準備を手がけていく。 令和4年度は、さらに課題2)医療・在宅の現場での合理的な評価方法への展開(令和4年度)へと研究を進めていく。課題1)で製作した測定器を用いて、実際の医療・在宅の現場でより実際に測定が行え、構造が簡単で、取扱いが容易である簡易型の測定器の新たな設計と、それによる測定値を用いた合理的な評価法の確立である。実際に医療、在宅の現場での適応について、フィールド調査により、誤嚥性肺炎予防のためのデータ収集、解析を行っていく予定である。さらにその評価システムを用いて、誤嚥性肺炎を予防するための食形態の最適化の研究に発展させ、本邦初となり得るものと自負している。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初の計画では、本年度で測定器の開発および製作を終える計画であった。ところが、新型コロナウイルスの影響により中小企業である製作機器メーカーの工場が閉鎖したため、製作に遅れが生じている。そのため、測定器が完成していないことから支払いができていない状況である。また共同研究者においても、コロナ禍により学会への参加や打合せがオンライン開催になったこともあり、旅費などの支出もなかった。 令和3年度に使用できなかった研究費については、令和4年度に繰り越しとして使用していく。使用計画としては、流動性測定器製作について、得られた測定結果をデジタルに数値化してコンピュータへ取り込むことを想定しており、PCに解析ソフトも組み込む予定がある。そのため、当初の見積りよりも製作費用が大きくなる可能性がある。これらの点を踏まえ、今年度は共同研究者への予算配賦について、ほぼ繰越金内での使用に留めていく予定である。
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