本研究では小動物用の体外式膜型人工肺(ECMO)を用い,非生理的な呼吸・循環管理が末梢骨格筋に与える影響を検証した.最終年度においては,リン光クエンチング法を用いた筋組織内の酸素分圧計測に加えて,データ分析と論文執筆を実施した.VA-ECMOが高酸素血症を誘導する特徴を有するため,高酸素が骨格筋に対して悪影響を及ぼすと仮説を立てて実験した.10週齢のSD雄性ラットを無作為に100%酸素投与,ECMO + 100%酸素投与群に分類し,電気刺激による骨格筋収縮時の生体応答として筋間質酸素分圧と筋発揮張力をリアルタイムに計測した.その結果,21%酸素を投与した対照群と比較して,動脈血酸素分圧は100%酸素投与群とECMO+100%酸素投与群で有意に高く,血中ヘモグロビン濃度はECMO+100%酸素投与群で有意に低かった.安静時および筋収縮時の間質酸素分圧は,ECMO+100%酸素投与群でコントロール群および100%酸素投与群より有意に低かった.筋発揮張力の波形を非線形関数に当てはめて,電気刺激に対する張力の立ち上がり,張力の最高値,および弛緩速度を解析した.その結果,張力の立ち上がりに群間差はなかったが,筋の発揮張力の最高値および弛緩速度はECMO+100%酸素投与群で最も低かった.以上の結果は,VA-ECMOは正常ラットの収縮筋の骨格筋機能を障害し,間質酸素分圧を低下させた.このVA-ECMOの影響は高酸素血症とは独立していた.臨床的には,VA-ECMOは重度の呼吸不全およびショックを有する方の生命を維持する最後の砦である.しかしながら,ECMO離脱後の歩行機能を担う骨格筋の低酸素を誘導し,その結果機能障害を惹起することが明らかとなった.本研究内容を現在雑誌に投稿中である.
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