研究課題/領域番号 |
21K11200
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
田中 宏和 東京都市大学, 情報工学部, 教授 (00332320)
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研究分担者 |
三苫 博 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (20453730)
筧 慎治 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (40224365)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小脳失調 / 歩行運動 / モーションキャプチャ / 四元数 / 成分分析 / 力学系 |
研究実績の概要 |
神経疾患に伴い特徴的な運動障害が生じることはよく知られており、そのため神経疾患の臨床診断には運動障害の適切な評価が不可欠である。一方、臨床で広く使われている診断基準は医師の主観に依存した定性的なものが多く、客観的かつ定量的な運動障害の評価法が望まれている。本研究の目的は、小脳障害を対象に全身運動のデータ駆動型力学系モデリングを通して脳の制御信号を推定し、その制御信号の解析を通して神経疾患に特徴的な運動障害の原因を解明する方法論を確立することである。当該年度は複数の関節角間の協調を定量化するため、歩行運動中の関節回転角の多変量成分分析法を開発した。【現在までの進捗状況】で説明する理由により、全身運動データの解析は関節回転角を表わす四元数の特性のため、先行研究では研究が進められてこなかった。本研究では回転角の四元数が持つ数学的特性を活用し、四限数の自由度を減らす変換を行うことで、多変量成分分析を可能にした。開発した成分分析法を歩行運動データに適用することで、解釈可能な歩行成分を抽出することが可能となった。これは歩行運動中の関節角を力学系として定式化する上で重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は歩行運動データを定量的に解析するための多変量成分分析法の開発に関して研究を行った。歩行運動データは各関節の回転角を表わす四元数として表現されている。四元数はその名の通り4成分から構成される数であるが、成分間に拘束条件があるため、主成分分析や独立性分析などといった標準的な多変量成分分析法をそのまま適用できない。したがって四元数表現の歩行運動データに関する解析法の先行研究はほとんど見当たらない。その難点を解決するため、四元数の自由度を一つ減らし、その低次元表現でそれぞれの成分が独立であるような数学的変換(対数変換)を導入した。変換後の四限数の各自由度は互いに独立なため、標準的な多変量成分分析法を適用できる。変換後の歩行運動データに主成分分析、行列判別分析、正準相関解析などを適用し、歩行運動データの成分分解、歩容の分類、筋電データとの成分対応が行えることを示した。特に成分分析に関しては、左右対称成分と非対称成分がきれいに抽出できることを示し、本手法により複数関節角間の協調が見いだせることが分かった。本成果は国内研究会で発表済みであり、今後論文投稿に向けて成果をまとめる予定である。また、本研究と関連して小脳の予測モデルと小脳失調に関する研究論文・解説論文を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、(1) 昨年度成果の学術誌への論文投稿準備、(2) 小脳患者・健常者のデータ取得、(3) 全身歩行データの力学系モデルリングに関して研究を推進する予定である。まず、昨年度開発した四元数多変量成分分析法に関して、学術誌への論文投稿を準備する。本分析法は従来行われてこなかった四元数の系統的な解析法であり、学術論文として広く公開することで、歩行運動に限定されない様々な全身運動データへの展開が期待される。次に、より多くの小脳患者・健常者のデータ取得である。特定の被験者に依らない、小脳失調患者一般の特徴を捉えるためには、多数の被験者データが必要である。昨年度はコロナ禍により提携先でのデータ取得は行えなかったが、本年度は感染防止に留意した上でのデータ取得が可能と期待している。最後に、歩行データの力学系モデリングを推進する。昨年度開発した手法により同定された歩行成分がどのような力学的性質を持つか、そして運動を決めている要因は何か、を見極めるために、データ駆動的に歩行データの運動方程式を定式化する。その運動方程式が小脳患者と健常者でどのように異なるかを定量化することで、小脳失調の力学的原因を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ禍のため、学会発表やデータ取得のための出張が出来なかった。そのため既存の機材で研究が行えたことや出張費が掛からなかったことから、当初の想定より少ない予算執行額となった。その分、本年度はデータ取得のための機材と学会発表のための出張費を計上する。
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