研究実績の概要 |
脳梗塞の慢性期神経的な機能障害については詳細な病態解明が十分には進んでおらず、根治的な治療法の確立が難しい。脳梗塞による過剰な炎症は脳の二次損傷を引き起こし更なる予後の悪化をきたすことが知られ、その主役は脳に存在するマイクログリアや浸潤した単球・マクロファージなどであるとされている。今年度は8週齡C.B-17脳梗塞モデルマウス(慢性期における実験的処置の治療効果および副作用の評価が可能な左中大脳動脈皮質枝領域に限局した脳梗塞モデルマウス; CLEA-Japan. Inc.)を用いて、脳梗塞発症2週後にコントロール餌(通常飼料群)、牛車腎気丸(TJ107)を含有させた餌(TJ107飼料群:ヒト投薬量を体重換算して5倍のTJ107餌)を60日間自由摂取させた。脳の重量および体重を測定し、脳からRNAを抽出し脳内炎症反応(マクロファージ(F4/80, CD163), TLR2・4, IL-23, IL-17, TNF-α, IL-1β等)と脳血液関門タイトジャンクション(ZO-1, Occludin,Claudin-1, Claudin-3, Claudin-5等)と血清抗体の変化について調べた。通常飼料群では梗塞した左脳のF4/80, TLR4, IL-17, IL-1βの上昇が見られ、TJ107飼料群では脳内炎症反応が抑制された。TJ107飼料群では通常飼料群に比べ、脳血液関門タイトジャンクション(ZO-1, Occludin, Claudin-1, Claudin-3, Claudin-5等)も改善された。また通常飼料群では梗塞していない右脳には脳内炎症反応(CD163, TLR4, IL-23, IL-1β)の上昇と脳血液関門タイトジャンクション(ZO-1, Occludin, Claudin-1, Claudin-5)の低下が見られ、TJ107飼料群ではCD163, TLR4, IL-23, Claudin-1, Claudin-5の改善が見られた。採取した脳で連続パラフィン切片を作成して、炎症細胞浸潤と改善程度を組織的に解析する予定している。
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今後の研究の推進方策 |
脳の連続パラフィン切片で炎症細胞浸潤と改善程度を組織的に解析し、脳梗塞モデルマウスの左中大脳動脈皮質枝領域の脳組織と反対側の梗塞していない右中大脳動脈皮質枝領域の脳組織だけを採取し、脳内炎症反応(マクロファージ(F4/80, CD163), TLR2・4, IL-23, IL-17, TNF-α, IL-1β等)と脳血液関門タイトジャンクション(ZO-1, Occludin,Claudin-1, Claudin-3, Claudin-5等)を調べ、脳保護効果と機能改善について前年度の結果と比較する。 またマウスの胸髄損傷モデルを作成し、2週後にコントロール餌、牛車腎気丸を含有させた餌を10週まで自由摂食させた後に経時的に脊髄と麻痺骨格筋線維の組織形態学的および生化学的に解析を行い、脊髄損傷による二次的な筋萎縮に伴う神経筋接合部への影響について漢方薬の改善効果を評価する。
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