研究課題/領域番号 |
21K11246
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
杉原 匡美 順天堂大学, 医学部, 助教 (80648163)
|
研究分担者 |
村山 尚 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (10230012)
呉林 なごみ 順天堂大学, 医学部, 客員准教授 (50133335)
柿木 亮 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 非常勤助教 (70614931)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 運動療法 / 拡張型心筋症 / 心不全 / レニン・アンギオテンシン阻害薬 / 不整脈 |
研究実績の概要 |
拡張型心筋症(DCM)は心不全(HF)の原因疾患の一つであり、心筋細胞の異常による左心室の拡大と収縮能低下を特徴とし、家族性DCMでは約30~40%に心室性の致死性不整脈による突然死が報告されている。運動療法は本邦でもHFの患者を対象に多数の施設で行われているが、DCMでは運動負荷がHFの増悪や致死性不整脈による突然死の誘因となるため患者を対象とした検討は難しい。研究者らは、森本らにより作出されたヒト家族性DCMに似た特徴をもつモデルマウス(以下DCMマウス)を用いて運動の効果を検討してきた。その結果、若年よりホイールを用いた自発運動を頻回(毎日~2日毎)に行ったDCMマウスでは、明らかな寿命延長効果が認められた。また、2ヶ月齢のDCMマウスにおいて、より頻繁な自発運動でより心収縮能が保たれることが分かった。下肢の遅筋であるヒラメ筋重量の増加や、イオンチャネルの遺伝子発現変化がこの結果に寄与していることが示唆された。併せて、レニン・アンギオテンシン阻害薬(ARB)の投与でも心収縮力低下の改善、易不整脈性の抑制がみられることを報告している。 本研究では、10~11週齢のオスDCMマウスを自発運動・ARB投与ともに行わないコントロール群、ARB阻害薬投与群、自発運動群、ARB投与・自発運動併用群(以下併用群)の4群に分け、心機能への影響や下肢筋の変化などを観察した。 令和4年度では各群がそれぞれ6匹以上となり、4群間での傾向を比較できるようになった。結果として、自発運動群と併用群で1日当りの走行距離は同等であった。ヒラメ筋(遅筋)重量は両群で増加傾向であり、腓腹筋(速筋)重量は4群で有意差を認めなかった。心エコーでの心収縮能は併用群で有意に改善していた。心拡大の指標である心重量はARB群と併用群で減少しており、併用群でより強いコントロール群との差がみられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究では、心筋トロポニンT遺伝子変異をノックインしたマウスのホモ接合体をDCMモデルマウスとして用いている(以下のDCMマウス)。メスのホモ接合体は妊娠、出産に耐えられないため、ヘテロ接合体を用いて自家繁殖している。以前よりホモ接合体が得にくいモデルではあるが、2022年度も同様であり、用いることが出来た個体数は不十分であった。 また、2021年度より研究代表者が分院に異動しており、勤務する大きく環境が変わり、本研究に従事できる時間が減少した。さらにコロナ禍において学会の開催のみならず感染予防の観点からも活動の制限が続いた。また、より詳細な自発運動を観察するため、ホイールに設置する新規の装置作成を業者に依頼しているが、こちらも半年以上遅延しており、予定していた観察が始められていない。以上の理由により、実験計画遂行が遅延している。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の計画が遅延しており、予定していた実験が滞っている。コントロール群、ARB阻害薬投与群、自発運動群、ARB投与・自発運動併用群について、心エコーによる評価、心重量/体重比、肺重量/体重比、下肢筋量/体重比は進んでいる。来年度はさらに必要とされる計測やデータ解析を継続するとともに、これまで採取した検体を用いて、4群の心筋における分子的な違いについて検討していく。DCMマウスにおける自発運動の効果のメカニズムも解明が不十分であり、4群での結果も踏まえつつ引き続き検討していく。また、これまではホイールをケージに設置するだけの装置で約1.5ヶ月の自発運動を行わせていた。しかし、どのような運動様式が最適かと言う点に関しては観察が不十分であり、そのためにホイールが回転する時間帯を制御できる装置との併用を計画していた。現在、新規の装置を業者に依頼しており、作成が難航し使用開始が遅れている。2023年上半期での試運転を目処にしており、装置が使用可能になり次第観察を始める。 また、上記の研究成果について、随時学会等で発表していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いているホモ接合体を得にくい期間が続き、研究代表者の異動や計画していたホイールの制御装置作成に想定以上の時間を要した影響により、2022年度の研究計画が遅延し、利用額が減少した。この資金は、引き続き研究計画を遂行するための動物飼育費や、試薬等を得るために用いる。また、長期に渡り遅延している論文作成に対しても用いていく。
|