研究課題/領域番号 |
21K11248
|
研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 正裕 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (00232471)
|
研究分担者 |
佐藤 巌 東京医科大学, 医学部, 客員教授 (00120668)
宮宗 秀伸 国際医療福祉大学, 基礎医学研究センター, 講師 (80422252)
上野 竜一 東京医科大学, 医学部, 臨床講師 (20384951)
山本 謙吾 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (10246316)
長田 卓也 東京医科大学, 医学部, 講師 (60297281)
李 忠連 東京医科大学, 医学部, 准教授 (80319532)
表原 拓也 東京医科大学, 医学部, 講師 (40800545)
矢倉 富子 東京医科大学, 医学部, 講師 (20722581)
河田 晋一 東京医科大学, 医学部, 助教 (00527955)
永堀 健太 東京医科大学, 医学部, 助教 (50759561)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 筋音 / 低周波 / Wavelet変換解析法 / 筋電図 / 運動機能 / 光レーザー変位計 / 痛み |
研究実績の概要 |
「筋音」は、筋の機械的活動の結果生じる微振動であり、これを記録したものを筋音図(sound myogram、SMG)と呼称する。これは脊髄前角の運動ニューロンのインパルスが筋線維群を収縮させる際に発せられる固有の周波数で、運動単位の筋線維タイプや疲労度、疾患により変化することが知られている。運動中の筋に振動センサーを置いて筋音を計測することで骨格筋収縮に起因する微細な振動の記録が可能であり、その信号に対してWavelet変換による「時間―周波数解析」を実施することで、筋線維や神経機能に由来する様々な情報を得ることが出来るとされている。2021年度はWavelet変換解析法による筋音収音法と解析法の確立を目的とした検討を行った。 1) 評価対象の筋として2021年度は、収縮、伸展、緊張、弛緩の運動を1つの筋で行える咬筋を選択した。被検者(対象者:健常男性4名、平均27.5歳)の顎運動についてのSMG波形を計測した。計測法は筋表面音信号を、加速度計を使用して検出した。 2) 収音マイクの位置などについていくつかの測定方法を検討したところ、直接、咬筋の筋膜上に聴診器を取り付けたエレクトレットコンデンサーマイク(ECM-C10、ソニー、東京、日本)が、筋音の収音について一番効果的であった。シンプルな1チャンネルSMGアンプに接続し、30秒のバンドパスフィルター処理(1~100Hz)記録、12ビットA/Dコンバーターによる変換簡便法で、筋音の収音で可能であることが明らかとなった。 3) 咬筋の活動時に示される特徴的なSMGの領域は10Hz前後の低周波であった。 4) 収音時にリアルタイム収録される全ての波形から10Hz前後の低周波を取り出し、それぞれをリアルタイムのパワー積分値を集積することで運動のパターン化を行ったところ、開口、閉顎、噛みしめの運動に対して、周波数の集積差が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は咬筋をモデルとして、運動時の筋音収音法と解析法のプロトコールの構築を完了した。特に、運動時に出る筋音の波形についてはWavelet変換法のうち低Hzの領域を分解するモルレー解析を使用することで、種々の筋音変化を効率的に解析することが可能と判明した。低周波領域の波型において、筋電図でみられる筋の活動電位のパターン化が見られるかを検討したところ、筋音の低周波領域の特徴的変化は筋音に特有なものであり、筋電図の周波数変化とは異なることが明らかになった。最終的な2021年度の成果として、リアルタイム収録した全ての波形について10Hz前後の低周波領域を中心として数Hz単位で波形を抽出し、積分値を集積したところ、開口、閉顎、噛みしめの運動機能の違いで筋音がパターン化され、Wavelet変換法による可視化と比較が可能となった。しかしながら、当初の予定であった四肢および体幹の筋を評価するには至らなかった。その理由として筋音収音の際、データにアーチファクトを生じる要素を排除するための方法論を確立するために時間が取られたことが挙げられる。筋音収音の予備検討を繰り返し行ったところ、当初想定していた以上に、各データは個人差が大きいこと、左右差や咬合状態が運動および得られる結果に影響をおよぼすことが明らかとなったからである。次年度からは本格的に運動形態の異なる肩関節や股関節、膝関節などの関節筋について、筋電図や変位計による振動測定も視野に入れた多角的な評価を行い、実際の患者のデータ収得につなげたい。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は咬筋をモデルとして、運動時の筋音収音のプロトコールを構築した。2022年度は四肢および体幹の筋の評価を実施する予定である。同時に痛みに関するテンダーポイントやトリガーポイントにおける局所部位でのSMGも評価する。日常動作や運動と疼痛を伴う運動との比較評価を行うために、光レーザー変位計による振動測定、マイク、および筋電図計を用いた筋音計測方法の確立を目指す。それに伴い、3チャンネル以上のコンバーターによるデジタル形式への変換機によるSMG、筋電図、位置変位を時間差で捉える。運動形態の違いについて低周波パターン化から可視化したデータ解析法を確立して、臨床応用への転換を目指したい。 同時にこれらについて、遠隔操作による安定的な筋音収音を目指してワイヤレス小型マイクあるいはワイヤレス筋電図計の導入を検討する。遠隔による筋音収音が可能となれば、臨床応用について大きな波及効果が期待できる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は予備検討に時間を要したことから、筋音の収音および評価が出来た筋は咬筋のみにとどまり、本来の研究目的である、四肢・体幹の筋を含めた「Wavelet変換解析法による筋音収音法と解析法の確立」に進むことができなかった。四肢および体幹の筋について各種動作を行なう時のSMGについて、運動形態の違い毎の低周波パターン化を達成することができなかったことにより、それに係るワイヤレスマイクや筋電図関連経費、消耗品代は次年度に持ち越しとなった。 また、SMGの評価においてはWavelet変換法による低周波パターン化が必要であり、これには大量のデータの演算処理が必須であるが、このデータ量が当初の想定を超えて膨大であった。これに対して当初計測に使った既存の機器の多くはデータ処理能力が十分でなかったことから、従来の解析モデル機械では局所的なSMG抽出に多くの時間を要し、かつ目的とする膨大な量のデータの収集および処理が出来ないことが明らかとなった。このことから、当初申請したコンバーター系の機器に代わり、収音、解析ソフトのパージョンアップ(Wavelet(ウェーブレット)変換・解析ソフト、波形表示ソフトウェアDAQⅢ、専用ノートパソコン)を急遽導入し、迅速化を行う必要が生じたことから、申請項目の見直しが生じた。
|