研究実績の概要 |
口腔顔面領域の一次中継核である三叉神経脊髄路核中間亜核(Vi)と尾側亜核(Vc)の移行部(Vi/Vc)と下行性疼痛調節を担う吻側延髄腹内側部:Rostral ventromedial medulla(RVM)に連絡するVi/VcのVc領域での役割を調べるために、三叉神経第3枝の下顎神経の枝である左側(L)下歯槽神経(IAN)を切断し、右側(R)IANは無処置の動物をCut群とし、またLのIANを無切断で露出のみ、RのIANは無処置の動物をSham群とした。手術2週後にCut群とSham群の動物動態をデジタルVon Freyテストにより、調べた結果、三叉神経第2枝の支配領域の口髭部皮膚領域での機械的疼痛逃避行動を引き起こす閾値(g)は、Sham群(L:16.5±3.9, R:14.0±2.5)を示し、Cut群(L:8.2±1.6, R:16.2±4.3)を示した。Cut群Lの閾値は、Sham群Lに比べ有意な減少を認めたことにより、Cut群を神経障害性疼痛のモデルとして確立した。これらの動物を使用し、三叉神経第2枝の中枢側のVcI/II層領域のFosとGABAの発現数について調べた結果、Cut群LのFosは、Sham群Lに比べ有意に増加した。これらの結果から、Cut群はSham群に比べ、VcI/II層領域での2次ニューロンの活動性が亢進していることが示された。一方Cut群LのGABAの発現は、Cut群R、Sham群LとSham群Rに比べ有意に減少した。これらの結果から、Cut群はSham群に比べ、VcI/IIでのGABA作動性抑制の欠如が示された。 以上の結果から、口腔顔面領域における神経障害性疼痛時にGABAが減少したことで、VcI/II層の抑制の欠如が起こり、その結果Fosの発現(2次ニューロンの活性)を増加させ、神経障害性疼痛が生じている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IANのLを切断した神経障害性モデル動物における侵害情報受容後の疼痛制御を行う延髄の神経活動の状況を調べている。これまでに、上記の神経障害性モデルにおける三叉神経2枝(V2)領域である口髭部皮膚への侵害情報受容後のFosとGABAの発現の変化を調べた。V2領域のFosとGABAの発現数については、Sham群のFos(L:8.5±0.6, R:1.0±0.4)であり、Cut群のFos(L:17.0±1.3, R:0.5±0.3)であった。Cut群LのFosは、Cut群R、Sham群L、Sham群Rにに比べ有意に増加した。この結果から、Cut群はSham群に比べ、VcI/II層領域での侵害情報受容後の二次ニューロンの活動性が亢進していることが示された。一方、Sham群のGABA(L:39.0±1.7, R:40.5±1.3)であり、Cut群は(L:22.8±1.9, R:39.8±1.3)であった。Cut群LのGABAは、Cut群R、Sham群L、Sham群Rに比べ有意に減少した。この結果から、Cut群LはSham群に比べ、V2領域でのGABA作動性抑制の欠如が示された。V3領域のFosとGABAの発現数については、Sham群のFos(L:2.8±0.5, R:0.0±0.0)であり、Cut群のFos(L:1.0±0.4, R:0.0±0.0)であった。Sham群とCut群のFosは、共に発現量は少なかった。Sham群のGABA(L:42.3.0±1.1, R:38.3.5±1.3)であり、Cut群のGABAは(L:22.8±1.9, R:37.0±1.9)であった。Cut群LのGABAは、Cut群R、Sham群L、Sham群Rに比べ有意に減少した。この結果から、V2領域と同様にCut群左はSham群に比べ、V3領域でのGABA作動性抑制の欠如が示された。
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