研究課題/領域番号 |
21K11259
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
横山 修 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 主任研究員 (60455409)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 体性感覚 / 感覚麻痺 / 運動障害 / 脳機能再建 / サル / 脳電気刺激 / ブレイン・マシン・インターフェース |
研究実績の概要 |
本研究は体性感覚障害において感覚機能と運動機能を再建する方法を開発することを目的としている。当該年度は感覚麻痺モデルサル2頭を作製し、随意運動時の大脳皮質運動野および体性感覚野の活動が健常状態とどのように異なるかを調べた。まず健常個体に上肢の到達・把持運動課題を訓練し、大脳運動野および体性感覚野の表面に皮質脳波電極を留置して運動課題遂行中の神経活動を取得した。次に、頸髄レベルで後根を切断することによって、脊髄への片側上肢の体性感覚情報入力が損なわれた感覚麻痺モデルサルを作製した。中枢神経系への体性感覚入力が損なわれたことを、末梢刺激に対する大脳体性感覚野の応答が減弱・消失したことによって確認した。1頭の感覚麻痺モデルサルは運動麻痺は呈さなかったが、運動課題の遂行にかかる時間が延長した。課題遂行中の神経活動を、体性感覚情報遮断前の神経活動と比較したところ、運動開始直後の一次運動野および一次体性感覚野の高ガンマ活動が増大したことがわかった。この結果は、既に述べた、末梢刺激に対する応答が減弱・消失した結果と対照的であり、随意運動中の一次体性感覚野の活動増加は末梢からの入力によるものではないと考えられる。随意運動時に元来入って来る体性感覚情報が後根切断によって入って来なくなったために、脳活動が異常を呈し過活動を起こした可能性がある。実際に、体性感覚情報の遮断後約2週間かけて、運動開始直後の高ガンマ活動は遮断前と同様のレベルに戻り、それに伴って運動課題の遂行にかかる時間も遮断前と同様のレベルに徐々に戻った。別の個体1頭については、後根切断手術自体は成功したものの、その後に体調を崩し、運動課題を行える状態まで回復しなかったため、体性感覚情報遮断後の随意運動中の神経活動を取得できなかった。そこで、新たに別の1頭に運動課題を訓練した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、2頭のニホンザルに対して運動課題を訓練し、後根切断手術を行った。そのうち1頭について後根切断から運動機能が回復するまでの行動データおよび神経活動データを取得し、データ解析を進め、一定の興味深い結果を得ることができた。後根を切断した別の1頭は、切断手術自体は成功したものの、切断後に体調を崩して運動課題を行うことが不可能になり、計画していた行動データと神経活動データの取得ができなかった。そこですぐに新たなニホンザル1頭に運動課題を訓練し、既に学習を終えている。次年度の前半で2頭目のデータも取り終える予定である。
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今後の研究の推進方策 |
取得した後根切断後の神経活動データを用いて、失った末梢からの入力を大脳一次運動野の神経活動から推定する計算モデルの作成を試みる。計画ではその後、作成した計算モデルを用いて大脳一次運動野の神経活動を変換し末梢からの刺激を代替するための電気刺激を作成する、としていたが、これまでに行った後根切断後の神経活動データの解析結果から、末梢からの情報欠損後には随意運動の実行時に脳活動の自発的な増大など代償的な活動変化が起きることが明らかとなっており、失われた末梢からの入力活動を直接算出したり電気刺激によって代替したりすることは難しいことがわかってきた。代替策として、健常な動物において、一次運動野の神経活動から出力される力の推定と、実際に出力された力から一次体性感覚野の神経活動の推定を行い、これらを組み合わせることによって一次運動野の神経活動を用いて一次体性感覚野を電気刺激する方法、などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外で開催される国際学会において成果を発表するための旅費を計上していたが、新型コロナウイルス感染症が流行している状況を鑑みて不参加とした。その残額でデータ保存のためのネットワーク接続大容量ハードディスクを次年度に購入することとした。
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