研究課題/領域番号 |
21K11268
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 特別研究員 (20204612)
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研究分担者 |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 名誉教授 (00135691)
田島 文博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00227076)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 運動による疼痛抑制効果 / 神経障害性疼痛 / 恐怖 / 免疫組織化学染色 / 自発運動 / 扁桃体 / 腹側被蓋野 |
研究実績の概要 |
これまでの研究成果から、VEがPSL-マウスの疼痛閾値に及ぼす効果として我々は、①PSL-Runnerマウスの機械的アロディニアと熱痛覚過敏は、PSL-Sedentaryマウスと比較して有意に改善すること、②von FreyテストとPlantarテストにおける疼痛閾値とPSL後の総走行距離との間には、有意な正の相関関係が認められることを明らかにした。さらに2020年にMol Painに発表した研究では、PSLにより著しく活性化した扁桃体中心核(CeA)のGABAニューロンが、VEにより有意に抑制されることが分かった。これらの結果は、EIH効果の発現には痛みが関連する恐怖を消去するメカニズムが重要な役割を担うことを示唆した。 上記の実験結果を踏まえて我々は、これまでに明らかにしたEIH効果に及ぼす恐怖刺激の影響を明らかにする検討を進め、preliminaryではあるが次の結果を得た。すなわち、①PSL-マウスに対するVE(PSL-Runnerマウス)は、von Frey閾値を高める(疼痛抑制効果の発現=EIH効果)が、PSL-Runnerマウスに恐怖刺激を与えると、このEIH効果が打ち消されること(慢性痛状態の維持)、さらに②PSL-Runnerマウスには腹側被蓋野(VTA)-dopamine(DA)ニューロンの顕著な活性化が起こる。しかしながらPSL-Runnerマウスに恐怖刺激を与えると、このVAT-DAニューロンの活性化が生じないことが分かった。このように本年度のおもな研究成果として、これまでに神経障害性モデルマウスを用いて我々が明らかにしたEIH効果が、恐怖刺激を与えることで打ち消されるという極めて興味深い研究成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に発表した原著論文(Kami K, Tajima F, Senba E: Molecular Pain, 2020)に加えて、「Bone Joint Nerve 第39巻」に掲載された総説および「第13回日本運動器疼痛学会・特別講演」と「第126回日本解剖学会総会 全国学術集会/第98回日本生理学会大会 合同大会・公募シンポジウム」での招待講演の影響により、本年度(2021年度)は、4編の総説(「整形・災害外科 第64巻」、「自律神経 第58巻」、「ペインクリニック 42巻」、「日本運動器疼痛学会誌13巻」)と4回の招待講演(「第43回日本疼痛学会・シンポジウム11」、「第58回日本リハビリテーション医学会学術集会・特別企画シンポジウム」、「第58回日本リハビリテーション医学会学術集会・教育講演」、「第32回日本末梢神経学会学術集会・シンポジウム2」)において、我々の最新の研究成果を発表することができた。このことは、本研究課題が多くの痛み研究者やリハビリテーション研究者に注目されていることを意味している。現在は、2021年度に得られた実験結果の再現性の検証を進めていることに加えて、Mol Pain (2020年)において公表した扁桃体に及ぼすいくつかのEIH効果が、恐怖刺激でどの様に変化するのかを明らかにするための準備を進めている。これらの実験結果は、2022年度中にはほぼ全てが出揃う予定である。このことからも本研究課題が順調に発展していると言える。このように恐怖刺激がEIH効果に及ぼす影響を明らかにする取り組みは、疼痛学分野における重要課題の一つであると言っても過言ではない。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、上記「現在までの進捗状況」でも述べたように、恐怖刺激がこれまでに我々が明らかにしたEIH効果に対してどのような影響を及ぼすのかについて検討することを予定している。すなわち、①PSL-Runnerマウスに対する恐怖刺激がEIH効果を打ち消したことを裏付けるため、恐怖刺激を負荷しないPSL-マウスを対象としてvon FreyテストとPlantarテストを実施し、それぞれの閾値の変化を観察すること(疼痛閾値が上昇することが予想される=EIH効果の発現)、②CeA-GABAニューロンはPSLに伴い活性化し、VEはそれらの活性化を有意に抑制することをこれまでに報告したので、このEIH効果が恐怖刺激を与えることで変化するかどかを明らかにすること、③PSL-RunnerマウスのVTAには活性化DAニューロン数が有意に増加する。そこでPSL-Runnerマウスに対する恐怖刺激がVTA-DAニューロンの活性化に与える影響について検討することを予定している。上記のEIH効果に対する恐怖刺激の影響については、行動実験、疼痛評価、免疫組織化学染色、逆行性トレーサーと免疫染色とのコンビネーションなどの実験手法を駆使して明らかにすることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に予定していた学会や研究会での発表が新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりオンライン開催などに変更されたことをおもな理由として、次年度使用額が生じた。次年度研究費の使用計画としては、試薬やマウスなどの研究消耗品費、学会旅費、英文校正費や論文掲載費等を予定している。
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