研究課題/領域番号 |
21K11287
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
柴田 論 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (10263956)
|
研究分担者 |
穆 盛林 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (00709818)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 携帯型機能的電気刺激装置 / 変形性膝関節症 / 歩行変容 / 大腿四頭筋の遠心性収縮 |
研究実績の概要 |
65歳以上の世界人口に占める変形性関節症は約50%と報告されており,社会保障費,医療スタッフの不足から適切な医療,リハビリテーションを受けられない患者が多い.また,膝関節疾患のリハビリテーションに関する歩行支援機器の研究と開発は十分ではなく,特に家庭でも使用できる機器の開発が急務である.本研究では,歩行周期のうち立脚初期から中期を検知するために踵骨中央部に圧力センサを設置し,電気刺激により膝関節の衝撃吸収に寄与する大腿四頭筋の遠心性収縮を生じさせ,それにより動作変容を実現し,膝への負荷を軽減することを目指した携帯型機能的電刺激装置の開発を試みた. 試作した装置を用いて,健常人を対象に動作変容が可能か実験した.実験結果から,荷重応答期における膝関節最大屈曲角度が機能的電気刺激群において有意に高値を示し,同時期の床反力鉛直成分と後方成分は有意に低値を示した.これらの結果から,機能的電気刺激群では電気刺激により膝関節伸展筋群の遠心性収縮をアシストして,膝関節屈曲角度を増加させることで衝撃吸収機能が働きやすくなり,同時期の床反力鉛直成分と後方成分が減少し,膝関節への負荷が減少したと考えられた.また,膝関節内転角度と内転モーメントには有意差は認めなかった.これは,健常者が対象のため,膝関節の剛性が高く,骨アライメントが影響する前額面上での動作変容に必要な機能的電気刺激量も不足していたことが原因として考えられた.このように,提案した携帯型機能的電刺激装置は,変形性膝関節症に有用な効果を与えることが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案システムを実現するためには,いくつかの基礎的事項を確実に実現する必要があった.まず,踵骨中央部に圧力センサを設置しそのセンサ情報を正確に取得するシステムの構築に成功している.これにより,歩行周期のうち立脚初期から中期を検知することが可能となった.また,大腿四頭筋に機能的電気刺激を与えるための要素として,大腿四頭筋への電気刺激パットの装着,コントローラから生成された電気信号を正確にパットに送り,大腿四頭筋に電気刺激信号を送るための装置の開発,電気刺激量を望ましい値にするための電圧信号の調整,変換システム等を電気回路とマイクロコンピュータにより構成することにも成功している.さらに,ユーザにとって負担とならないような携帯型の装置とするために,コントローラボックス,電気回路,マイクロコンピュータシステムの小型化,軽量化等の工夫を行い,腰部に携帯することが可能な大きさの収納ケースを作製している. また,試作した装置を用いて,健常人を対象に動作変容が可能か実験を行うことが出来た.実験では,3次元動作解析装置,床反力計を用い,健常者に装置を携帯してもらって実際に歩行を行い,いくつかの重要な運動パラメータを評価した.その結果,機能的電気刺激の有効性を確認することが出来,本研究の意義を確認することに成功している.
|
今後の研究の推進方策 |
まず,本研究の研究成果を学術論文に投稿し,研究の意義を社会に発信させる予定である. 令和3年度に行った研究において,歩行周期の初期段階で電気刺激群の膝屈曲角度が大きくなった.この理由として,1~3歩時に行った大腿四頭筋への電気刺激効果の残存,および感覚神経を伝播して大脳皮質の感覚野と運動野の興奮性を変調させる求心性効果が反映されていることが推測されるが,これらを証明することについて取り組んでいく必要がある. また,開発したシステムを用いて変形性膝関節症と診断がつき病院にて治療中の患者を対象に最初に実験をするのは倫理的に困難であった点や,新型コロナの感染拡大の影響で医療機関においては診療以外の活動等は制限されていた事情もあり,実験対象者を健常者とした.しかしながら,本報告において健常者を対象としているものの本システムが安全であり,その効果が確認されたので,今後は変形性膝関節症患者による効果の検証に取り組む. さらに,令和3年度の取り組みでは,機能的電気刺激の刺激強度は一定の振幅を持った電圧波形であった.これを,膝関節の外側動揺を検出し,その大きさに合わせて次ステップにおいて刺激電圧強度を調整するシステムを構築し,評価する予定である
|