下肢運動器疾患患者のリハビリテーションにおいて,歩容の改善と効率的な歩行動作の獲得は極めて重要な課題である.特に歩容において左右非対称性の歩行は,治療対象とされてきた.しかし,エネルギー効率からみた場合,必ずしも完全対称性の歩行が良い歩行とは言えない.そこで,非対称性歩行を作り出すダブルベルトトレッドミルを用いて,健常者と様々な跛行パターンを呈する股関節疾患患者を対象に,左右歩行周期の非対称性からみた歩行動作の「効率性」について,下肢力学的エネルギー伝達と筋活動特性から検討し,ヒトの非対称性運動に対する適応能力と最適な効率的非対称性運動についてのメカニズムを解明することを目的とした.R3年度は,モーションセンサーを用いてQuaternion(四元数)を算出し,脊椎と四肢の歩行時姿勢情報を推定することを試みた.同時に三次元動作解析装置を用いて角度情報の精度について検討した.その結果,角度情報の精度は,運動速度に影響を受ける可能性が出てきた.体幹の回旋角度に関しては運動速度が比較的遅いため,ある程度の精度は確認出来たが,上肢,下肢の振り出し速度に関しては,誤差が大きくなる可能性があり今後の検討課題となった.R4年度は,65歳以上の健康な女性高齢者10名(対照群),及び左変形性股関節症(OA)の診断を受け,手術治療目的で入院した60~70歳代の女性10名(OA群)の計20名を対象に歩行時の腕振り角度と脊柱回旋角度の関連について検討した.その結果,OA群の腕振り角度の減少には,第2仙椎の回旋角度の減少が影響している可能性が示唆された.R5年度は,実際にsplit-belt treadmill(SBT)を用いた非対称性歩行の研究を開始したが,最適な効率性のカットオフ値の検出までは至らず,検討の余地が残された.
|