心不全患者においては、神経体液性因子の活性化から脂肪組織において遊離脂肪酸を放出し、骨格筋においてインスリン抵抗性・ミトコンドリア機能低下から脂肪酸代謝不全を来し、骨格筋内の脂肪濃度を増加させ、筋力低下・筋肉量減少からサルコペニアを来す。この骨格筋不全を防ぐためには、運動療法のみでは不十分であり、適切な栄養療法併用が必要である。サルコペニア予防のための糖・アミノ酸を用いた栄養療法は精力的に研究されてきたが、脂肪酸を標的とした栄養療法については確立していない。また骨格筋において非侵襲的な脂肪酸含有率の測定法は確立していない。我々は、非侵襲的なMRスペクトロスコピーを用いて骨格筋における脂肪酸含有率測定方法を確立し、心不全患者におけるサルコペニアを防ぐ栄養療法を確立しようとした。骨格筋の脂肪化はMRIによるT1,T2強調画像にて高信号として検出できるが、我々は、まずMRスペクトロスコピー(MRS)で脂質のピーク値により定量化することで、骨格筋の断面積よりも感度よくサルコペニアを同定できる方法を確立した。次に我々は、ω3系不飽和脂肪酸が、細胞膜を構成する脂質ラフトの流動性を改善し、血管炎症抑制を介して、骨格筋における動脈硬化や認知機能・心不全に関連することを明らかにした。また栄養調査にて行った解析では、不飽和脂肪酸摂取不足とサルコペニア罹患率とは正の相関がることがわかり、サルコペニアの治療標的として不飽和脂肪酸が治療標的の一つであることが明らかとなった。このようにMRSを用いた解析により、不飽和脂肪酸がサルコペニアの治療標的であることが明らかとなった。
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