研究課題/領域番号 |
21K11329
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研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
北越 大輔 東京工業高等専門学校, 情報工学科, 教授 (50378238)
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研究分担者 |
鈴木 健太郎 杏林大学, 保健学部, 講師 (40612578)
鈴木 雅人 東京工業高等専門学校, 情報工学科, 教授 (50290721)
山下 晃弘 東京工業高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (80589838)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 包括的介護予防 / 認知訓練 / 見守り / 対話エージェント / 深層強化学習 / ヒューマンエージェントインタラクション |
研究実績の概要 |
本研究では高齢者を対象に,ICT機器とセンサを用い,習慣的な認知訓練,エージェントとの対話を通した見守り,高齢者同士の見守り合いの実現に加え,認知訓練や対話,見守りに関するログデータとAI技術を活用した疾病予測や健康増進アドバイスの提供を通じ,高齢者同士,および高齢者とその家族が支え合う包括的な介護予防を実現する枠組の構築を目指す. 今年度は,並列して開発を進めている転倒予防システムを用いた実験を通して,高齢者の認知症予防に貢献し得るゲーム(運動)の調査を進めるとともに,知的対話エージェントの発話内容調整機構に深層強化学習手法を適用し,利用者の反応に応じた適切な発話方策を学習可能であるか評価した.また,知的対話エージェントと認知訓練システムを組み合わせた試作版包括的介護予防システムを複数の学生の自宅へ設置し実験を行い,両システムの併用による認知訓練・見守り効果についても調査を行った. これらの実験の結果,転倒予防のための運動を伴うゲームは,認知機能の維持・向上にも貢献し得る一方,怪我のリスクに関する検証を継続する必要があることが確認され,いくつかの強化学習,深層強化学習法の発話内容調整との親和性と現時点での課題についても確認できた.加えて,知的対話エージェントと認知訓練システムを組み合わせることで,利用者の振舞をより詳細に予測可能となることが明らかになった. コロナ禍の下,高齢者に実際にシステムを利用していただく機会を設けることはできなかったが,その分,開発にかける時間が確保できたため,エージェントのハードウェア構成をスマートスピーカからシングルボードコンピュータ等を用いた自作機構へ移行する作業を前倒しで実現できたことに加え,学生対象の実験を通してシステムの基本的な特徴の把握を進め,高齢者を対象としたアンケートにより,高齢者の包括的介護予防に対する高い期待についても再確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記載のとおり,当該研究課題で提案するシステムの対象者は高齢者であり,本来,高齢者を対象とした実験を通してシステムの特性・性能を評価する必要があるものの,コロナ禍の影響により高齢者に対面でシステムを紹介したり,実験を通して高齢者に実際にシステムを試用してもらいデータ収集したり評価をいただいたりすることが困難な状況となり,比較的感染リスクの少ない,申請者所属機関の学生を主要な実験協力者とせざるを得なかったことが最大の原因である. 一方,当初実験の実施や結果の評価・考察に用いるために確保していた期間を別の目的に活用可能な状況となったため,申請当初の研究計画では2年目に予定していた,マイクとスピーカ,シングルボードコンピュータを用いた試作版知的対話エージェント機構の自作を進め,開発当初使用していたスマートスピーカからの移行を実現して実験で使用する段階まで到達できたことは研究の進捗として評価できると考えられる.試作版の導入に伴い,エージェントが使用者の発話をトリガとして待機する必要なく,自発的な発話を行う機能の実現が容易になった. また,これまでの研究活動で長年協力していただいている地域の老人会・福祉施設参加者とメールや電話を介して連絡を取り合って,紙媒体資料の郵送形式でアンケート調査を実施した結果,40名以上の協力者から回答を得ることができた.オンライン形式でのアンケート実施は通信環境的に対応困難な高齢者が多く,今後は調査に協力いただく高齢者の拡大へ向け,対面形式と郵送形式を併用したアンケート調査を計画していく. しかしながら冒頭に記載の通り,開発にあたっての最重要項目である高齢者による直接的なシステム利用が叶わなかったことの影響は大きく,一部成果・進捗に関する好材料は得られているものの,研究課題の進捗状況としては当初想定よりやや遅れていると判断せざるを得ない状況である.
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今後の研究の推進方策 |
コロナウィルスの流行状況を慎重に見極めながら,近隣の保健福祉センターや老人会等,これまでに協力を得てきた連携先とより緊密に連絡を取り合い,対面での協力を得られる状況となった段階で速やかに実験協力を依頼することで,迅速にシステム評価用のデータを得られるよう事前の準備を進めておく. また,上記条件が満たされ次第,昨年度実施予定であった,(1) 利用者の疲労度や生活習慣を用いた認知訓練難易度調整機構の改良,(2) 高齢者宅に設置するセンサの種類,数,収集すべき情報の検討,(3) (1), (2)の妥当性について,高齢者を対象とした実験による評価・考察を至急実施するとともに,研究期間2年目の計画として予定している,上記(1)の結果,および実際に収集されたデータを用いた確率モデル(生活習慣モデル)の構築とその妥当性評価,試作版包括的介護予防システム(知的対話エージェントと認知訓練システムのハイブリッドシステム)を高齢者宅に設置してデータを収集し,収集データを用いた高齢者の体調変化予測,心身状態維持・改善に貢献する情報の抽出法の検討を進める. 当初2年目に実施予定であった知的対話エージェント機構の自作はある程度完了しているため,学生を対象に得られているデータの評価・検証を進め,より高齢者の特性にマッチするよう,改良・追加すべき機能についての検討も進めていく. コロナ禍の影響で引き続き高齢者対象の実験が実現できなくなった場合,初年度同様,前倒しで実施可能な計画(例:生活習慣モデルを用いた行動予測や健康リスク推論の実施など)について取り組む.その場合,高齢者を対象としたデータ収集や評価の獲得は困難であるため,暫定的に学生を対象に実験を実施して結果評価・考察を行い,高齢者へ転用可能な知見を可能な限り得ることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では,昨年度の時点で高齢者への実験を実施し,結果を取りまとめ国内外の学会・研究会等で成果を発表する予定であったが,コロナウィルス流行の影響により,年度冒頭の段階で高齢者を対象とする実験の実施が困難な状況であることがほぼ確定し,結果として,実験,および実験結果の取りまとめに加え,結果の評価と考察を踏まえて進める予定であった研究の第二段階へと進むことが不可能となった.このため,実験結果の評価・考察を踏まえて購入予定であった物品の購入費用や実験結果取りまとめ作業を依頼する予定であった学生への謝金,研究成果を国内外の学会・研究会にて発表するための旅費・宿泊費,研究成果を学術雑誌等に投稿し採録された際の掲載料等、諸々の予算に関して使用の機会が失われることとなり,次年度使用額が生じる状況となった. 今後の研究の推進方策にも記載の通り,今年度,コロナウィルスの流行状況が改善し実験が行える状況となり次第,対面による高齢者を対象とした実験を実施する予定である.また,当該ウィルスの流行が継続した場合であっても,一部実験対象者を学生へと切り替えることで可能な範囲で研究計画を推進し,前年度購入予定であった物品やデータ整理補助学生向けの謝金,成果発表のための旅費・宿泊費・論文掲載費等として当該助成金を活用する予定である.
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