本研究では頭部に力学的刺激を加え、脳内の細胞が力学的刺激に応答するのか調べ、認知機能に対する効果を調べた。本研究の開始当初はLPSを腹腔内注射することにより脳の炎症モデルマウスを作製していたが、1か月を超える長期的な実験の場合、自然回復の影響が大きく、力学的刺激の効果が正確に解釈できないと判断したため、別の疾患モデルを用いて力学的刺激の認知機能に対する長期的な効果を調べることとした。そこで光血栓法による脳損傷モデルマウス、また老化促進マウスSAMP8を用いることとした。脳損傷モデルは脳損傷の反対側の肢の麻痺具合を調べる行動テスト(Grid walk test)によりモデルの作成自体に成功したことを確認したが、麻痺により全体の行動自体が制限されてしまうため、Y字迷路テストや物体位置認識テストを用いた認知機能の評価が正しくできず本実験には適切でないと判断した。老化促進マウスSAMP8を用いた実験では咀嚼による脳への刺激を低下させ、より認知機能の低下を導くために粉餌飼育し、2ヶ月間の力学的刺激の認知機能に対する効果をY字迷路テストや物体位置認識テストにより確認した。 その結果、Y字迷路テストではコントロール群と介入群で差はなかったが、物体位置認識テストでは仮説とは逆に力学的刺激を加えた介入群の方がコントロール群に比べ、認知機能が低下した。行動解析後に海馬を採取し、TNFα、IL-1β、MCP-1の遺伝子発現を解析したところ、IL-1βが介入群で増加していた。以上の結果から、頭部への長期的な力学的刺激は認知機能を低下させる結果になったが、今後様々な条件(強度、頻度)の力学的刺激を用いて認知機能に対する効果を検討していきたい。
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