近年、ロボット技術を用いたリハビリテーション(以下、リハビリ)への期待が高まっている。しかし、ヒトでは障害の程度や訓練に対するモチベーションなどを一定にすることが困難であるため、その効果の検証は容易ではない。実験動物を用いれば、損傷部位を再現性良く作成することや提案する訓練法の効果のみを評価することが可能となる。本研究では、脳梗塞片麻痺および健常ラットに選択反応時間タスクを学習させる際、応答動作に同期して誤反応動作及び正反応動作を強制的に誘発し、その際に生じる大脳皮質電場電位に関連した脳活動が学習過程の促進及び遅延現象と関連していることを明らかにし、運動企図の生じるタイミングに対してどのように外力を加えることが有効であるのか、そのメカニズムを明らかにする。 我々は、健常ラットおよび片側大脳皮質梗塞ラットに左右一方の前肢への空圧刺激に対してレバー離しによって応答するという選択反応時間タスクを学習させ、タスクのキューとなる空圧刺激の一定時間後にレバーを駆動してラット前肢に外力を加え、“誤”応答動作を強制的に誘発することにより、学習過程を促進させうることを実証している。しかし、応答動作に同期してレバーを駆動した場合には、“誤”応答動作を強制的に誘発しても学習過程を促進するような効果は見られなかった。また、レバー駆動後に対側大脳皮質前肢領域に陰性の硬膜外電位変化を生じていることが分かった。以上より、空圧刺激から一定時間後にレバー駆動することによって誘発された大脳皮質神経細胞活動が学習過程を促進したものと考えている。 これまでのところ “誤”応答動作を強制的に誘発することによって学習過程が促進されるという知見を得ているが、必要に応じて動作補助することが効果的であるという従来のリハビリ訓練におけるストラテジーとは異なるものである。今後、その神経メカニズムを明らかにしてゆきたい。
|