最終年度ではIMUを胸背部にも取り付け、ランニングにおける上半身と下半身の連動に関する評価をおこなった。ランニングでは上胴と下胴がねじれるように回旋運動をするが、ランニングスピードによって回旋の位相ずれ(ねじれの程度)が変化することを明らかにした。すなわち、ジョギング程度のスピードでは上胴と下胴は位相が180度であったが、スピードがあがりレーススピードあたりでは位相が90度近くまで変化した。この変化は上胴の回旋に下胴の回旋が近づくことによって生じていた。そして、ランニングでは支持期における身体重心の挙動と地面反力の関係から見かけ上のバネ定数を算出して評価されるが、この見かけ上のバネの硬さと上胴と下胴の位相ずれの間に関係があることも示唆された。ピッチや見かけ上のバネのランナーの固有値、ランニング中の変化、そして縦断的な変化を上胴と下胴の回旋運動によって調節することができれば、ランニングの評価とフォーム改善の実践に大きな影響を与えるものと言える。 本研究の目的は、慣性センサーとAIを用いてランニング評価パラメータを推定することであった。慣性センサーを腰部に取り付けランニング中の身体重心の移動を推定するとともに、足部に取り付けることで、接地と離地の瞬間の推定精度と高めるとともに足の軌跡を推定するアルゴリズムを開発した。さらに左右方向の地面反力の推定に取り組んだものの完成にいたらず、引き続き継続して研究を続けることとなった。データはすでに取得しており、研究手法、とくにAIのアルゴリズムもいくつかに絞り込んでおり、推定の精度と推定データの妥当性と信頼性の検証をおこなう。そして上胴と下胴の回旋運動に着目しピッチや脚のバネ的働きとの関係を検討し、ランニングの評価パラメータとともに運動学的にランニングの向上に資する知見を明らかにした。
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