研究課題/領域番号 |
21K11343
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
深見 英一郎 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 准教授 (10351868)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 運動部活動 / 部員の主体性 / 指導者のリーダーシップ / チームスポーツ / 選手選考 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高校野球において指導者と部員双方にとって望ましい選手選考の在り方を明らかにすることであった。その背景として、チーム力を高め勝利することでより高みを目指すチームにおいて選手選考は重要な課題となる。チーム毎に設定する目標が異なるため選考方法やその基準はそれぞれ異なると考えるが、指導者とすべての部員が納得できる選手選考を行うことは難しい。すぐれた指導者は、選手選考を重要な教育機会と捉え、高校野球が抱える教育の論理と競技の論理という2つの相矛盾する目的の達成を目指していると考えた。また、指導者とすべての部員にとって望ましい選手選考ができれば選手たちの日々の練習に対する取り組み方がより主体的で挑戦的になり、チームの競技成績の向上にも繋げることができると考えた。 実際に、以下の2つの研究、学会発表「部員の主体性を保障する指導の在り方 高校野球における選手選考を事例にして,2021」及び、投稿論文「部員主体の運動部活動の実現可能性:高校野球における選手選考を事例にして, 2022」を通して、次のような結果が得られた。最も一般的な選考方法は、選考基準を明示した上で部員の考えや意見を聴き取り、それを踏まえて指導者が中心となって選手選考を行う方法であった。ここでは、指導者主導で選手選考を行いつつも、事前にすべての部員に対して選考基準(努力の方向性)を示し、部員全員にメンバー入りするチャンスを与えていた。また、野球の技能・実績だけで選ぶのではなく、必ず練習態度や学校での生活態度も考慮することで教育的側面を重視していた。これらの条件、手続きによりすべての部員が主体的に努力する機会が保障されていた。このように「競技」と「教育」を二者択一ではなく、どちらも同等に重視して、それらの価値観を指導者とすべての部員で共有していたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年は、新型コロナウイス感染症の拡大の影響を受けてデータの収集作業が遅れ、十分なデータを収集することができなかったが、「第71回 日本体育・スポーツ・健康学会」での発表までたどり着けた。 2022年は、データ収集作業及びデータ集計を進め、前年の遅れを取り戻し、研究論文「部員主体の運動部活動の実現可能性:高校野球における選手選考を事例にして」(深見ほか, 体育学研究, 67巻)の完成まで展開することができた。 2023年は、この流れを受けて、望ましい選手選考の在り方に関する研究成果を踏まえて、「指導者とすべての部員が納得のいく選手選考の在り方: 仲間とともに充実感や達成感を味わうことができる活動計画づくり」に関するミーティング資料を作成し、その有効性を検証する予定であった。具体的には、研究実施者が学校訪問し、各チームのミーティングに介入して、より良いチームづくりを目指した選考方法を導入しようとした。シーズン終了後、選手選考に関する調査を実施し、実際に指導者と部員の双方が納得のいく選手選考につながっていたか、また選手のやる気やチームの士気さらには競技力向上に繋がっていたかを検証しようとした。 一方で、2023年度はサバティカル期間を取得し、2023年4月-2024年2月初頭まで学生スポーツが盛んな米国フロリダ大学での研修機会をいただいた。これは滅多にない機会であるため、ここでしかできないテーマで研究しようと考えた。具体的には、米国のユーススポーツのコーチングや指導者の指導方法に関して、現場レベルでの最近の研究動向に接すること。また、フロリダ州の高校における運動部活動の実態について調査すること。それらを踏まえ、チームスポーツにおける目標設定とその達成方法、指導者と部員のリーダーシップの発揮の仕方、選手選考の方法及びそれに対する部員の受け止めかたなどを明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
フロリダ大学は、スポーツがとても盛んで、通称「ゲイターズ」は、強豪リーグSECに所属しアメフトやバスケット、野球は特に有名である。米国は、大学生のスポーツはもちろん、高校生の様々なスポーツの試合もTV中継されるほど、市民のスポーツへの熱量が高い。日本の部活動との違いは、3-4カ月間のシーズン制になっていて季節ごとに取り組む競技が替わる点にある。例えば最も人気のあるアメフトは8月に入部希望者が集まって練習し、9-10月に試合があり、終わると解散する。冬はバスケット、春は野球などに取り組み、基本的に日本のように1年中同じスポーツをすることはない。また、トライアウト制度があり、高校年代では技術的に高い生徒しか入部できない。さらに、こうした高校年代の部活動指導を担っているのは約半数が外部指導者といわれている。 2023年は、米国の部活動の指導者やその指導方法に関して、現場レベルで最近の研究動向を明らかにし、日米の運動部活動について比較研究を行いたい。フロリダ大学College of Health and Human PerformanceのDr.Dan先生に、フロリダ州の高校運動部活動を紹介してもらい、指導者及び部員に対して、次のインタビュー調査を行う。 1)チーム目標は誰がどのように設定しているのか、2)チーム目標の達成に向けてどのように計画を立て実行に移すのか、3)練習/試合における指導者と部員のリーダーシップの発揮の仕方、4)選手選考の方法及びそれに対する部員の受け止めかたなど。 日本では、未だ顧問によるハラスメント指導、選手の考えを尊重しない指導が問題となり、有能な選手がやる気を失いスポーツから離れてしまうケースが少なくない。この状況を一刻も早く改めなければ、日本のスポーツ文化は衰退してしまう。本場米国の運動部活動制度を研究することで日本の運動部活動システムの改善につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
いまだ新型コロナ感染が収まらない中、各高等学校への訪問が制限され、当初想定していた介入指導計画を進めることができなかったため
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