障がい者に対する暑熱対策は病態を把握した上で行う。切断・肢欠損選手では、健常者に比べて仕事効率が低く熱産生が高くなり、体表面積減少により非蒸散性熱放散が減弱し、健常者以上に発汗をするため、適切な水分補給が必要である。脳性麻痺選手では、不随意運動や痙性により安静時代謝が健常者に比べて高く、夏季にはこまめな水分補給を行い、練習は時間を区切りながら行う。視覚障がい選手は、体温調節反応は健常者と同等と想定され、皮膚色素が欠損する選手では、日焼けにより汗腺が障害され、時にガイドランナーの体調管理も必要である。知的障がい選手では、自ら気温や湿度に応じて着衣を調節し、必要なタイミングで必要量の水分補給をし、自ら練習量やペースを変えることが難しい。脊髄損傷選手では、皮膚血管拡張・発汗反応が全身または一部で障害され、暑熱馴化も生じにくいため、うつ熱を引き起こしやすい。体外冷却の目的で皮膚表面を冷やしてもうつ熱を引き起こす。 本研究では、対流の原理を用い、脊髄損傷者の暑熱環境下で運動後に上昇した深部体温を効果的に低下させる「上肢冷却」法を開発するための基礎的な情報得ることを目的とした。頚髄損傷者においては運動強度50%VO2peakが5ワット程度になる。室温25℃で30分間の上肢運動をするとき、痩せている選手では同運動時に深部体温がむしろ低下し、同時に前腕皮膚温も低下した。この時の深部体温減少と前腕皮膚温の減少の間には正の高い相関関係を認めた。健常者の50%VO2peakは20ワット程度であるが、同じ環境下において、5ワットで運動した際には深部体温は低下した。前腕部の動きにより、対流による熱放散が亢進したと解釈できる。 他研究期間中、東京パラリンピック開催に際し、パラ陸上選手のアップ時の急激な深部体温上昇を抑制する目的で、体外冷却用ベストを試作し、高温多湿環境下においてはその効果を確認した。
|