研究実績の概要 |
持久的競技パフォーマンスを向上させるための低酸素環境を用いた最適な運動トレーニング(TR)方法についてはその解明に至っていない。これまでの研究において、低酸素暴露かTRを単一の刺激因子として用いた場合は、持久的競技パフォーマンスに関与する別の要因(低酸素刺激の場合は細胞外からの酸素供給能力、TRの場合は細胞内酸素利用能力)をそれぞれ向上させるものの、低酸素暴露とTRの併用はそういった適応を消失させた。そこで本研究では低酸素環境とTRを併用した場合に持久的競技パフォーマンスに関わる要因の向上を抑制した原因を明らかにするとともに、低酸素環境を用いた新たなTR方法についても検証することを目的として、当該年度では、筋組織や腎臓を対象に、どの程度の酸素濃度、どの程度の低酸素暴露時間によって低酸素応答が生じるのかを検討した。 被験動物には9週齢のWistar系雄性ラットを用いた。低酸素暴露時間の条件として1, 3, 6, 24時間と対照群を含む5条件を設定し(この際の酸素濃度は12.0%O2とした)、暴露させる低酸素濃度条件として20.9%O2, 17.7%O2, 15.4%O2, 12%O2の4条件を設定し(この際の暴露時間は3時間とした)、それぞれの刺激条件に対する筋有酸素性代謝に関わる因子のmRNA応答について検証した。その結果、筋組織においては最も条件の厳しい12% O2での暴露であっても24時間までの暴露時間では上記因子のmRNA応答に顕著な変化は認められなかった。その一方で、腎臓では赤血球産生に重要なエリスロポエチンのmRNA発現が、12%O2の低酸素環境下であれば3時間以上の暴露によって増加した。したがって、短時間で十分な低酸素応答を引き起こすためには、少なくとも12%O2よりも厳しい酸素濃度条件で少なくとも3時間の暴露時間を設ける必要があることが示唆された。
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