研究課題/領域番号 |
21K11382
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
石道 峰典 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (80737536)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 加齢性筋萎縮 / 水代謝 / AQP4 |
研究実績の概要 |
我々は、これまでの研究において加齢による筋水分量の減少とともに骨格筋における水分代謝の主要な制御因子の一つである水チャネル“アクアポリン4(AQP4)”の発現も減少することを明らかにした。一方で高齢期骨格筋のAQP4の発現変化と水分含有率の変化との関係性は不明瞭なままである。 そこで、2022年度の研究は、加齢によるAQP4の変化と水分含有率の変化との関係性を明らかにすることを目的に実施した。実験動物に老化初期のマウスを用い、被験筋は、速筋である前脛骨筋と遅筋であるヒラメ筋とした。被験筋を摘出し、筋重量と筋水分含有率を算出した。またAQP4やAQP4と協働して水分代謝を行なっているAQP1の発現量を検討した。骨格筋内においてAQP1は毛細血管に発現しており、筋線維に発現するAQP4との間で水分子輸送を行うことで骨格筋の水代謝を制御していると考えられている。 その結果、老化初期マウスの速筋ではAQP4の発現量が有意に低下する一方で水分含有率に有意な変化は認められなかった。一方、遅筋ではAQP4の発現量の変化は認められなかった。さらに水分含有率による有意な変化も認められなかった。また骨格筋内の毛細血管に発現しているAQP1については、速筋、遅筋ともに有意な変化は認められなかった。 以上のことから本研究により、加齢にともなう水分含有率の低下が生じる前に水分代謝の主たる制御因子であるAQP4の発現量の低下が引き起こされる可能性が示された。さらにこの現象は遅筋よりも速筋においてより顕著である可能性が示唆された。一方で、AQP1については、速筋および遅筋ともに老化初期では発現量の変化が認められなかった。このことは、同じ水チャネルであっても筋線維側に発現するAQP4と毛細血管側に発現するAQP1では、老化に対する応答の仕方に違いが生じている可能性を示唆するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、加齢性筋萎縮に対するAQP4の関与を解明するにあたり、AQP4の発現変化と水分含有率の変化の関係性の解明を目的に研究を実施してきた。実験動物に老化初期のマウスを用い、被験筋を速筋である前脛骨筋と遅筋であるヒラメ筋とした。その結果、老化初期マウスの速筋ではAQP4の発現量が有意に低下する一方で水分含有率に有意な変化は認められなかった。一方、遅筋ではAQP4の発現量や水分含有率による有意な変化は認められなかった。またAQP1においては速筋、遅筋ともに有意な変化は認められなかった。したがって、加齢にともなう水分含有率の低下が生じる前に水分代謝の主たる制御因子であるAQP4の発現量の低下が引き起こされる可能性が示された。さらにこの現象は遅筋よりも速筋においてより顕著である可能性が示唆された。さらに本研究では、速筋および遅筋ともに老化初期ではAQP4とは異なりAQP1の発現変化は認められなかった。これは、筋線維に発現するAQP4に対し毛細血管に発現するAQP1は老化の影響を受けにくい可能性を示唆するものであった。これらの知見は、AQP4の発現特性の変化が加齢性筋萎縮や水分量低下に及ぼす影響を明らかにする上で重要な知見であると考えられる。またこれらの研究成果の一部は学会などで発表することができ、十分な研究成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究により、老化初期にはまず水分輸送制御因子であるAQP4の発現量の減少が引き起こされて、続いて骨格筋全体の水分含有率の低下が生じていく可能性が示唆された。さらに本研究では、この現象は遅筋よりも速筋でより顕著である可能性も示唆された。一方で本研究では、毛細血管に発現しているAQP1に対する老化の影響を明らかにできなかった。AQP1は骨格筋内の毛細血管に発現しており、筋線維に発現するAQP4と相互作用することで骨格筋全体の水輸送を制御していると考えられている。したがって、AQP4とAQP1の関係性が老化とともにどのように変化していくのかを明らかにすることは、加齢による筋水分含有率低下のメカニズムを明らかにする上で重要な知見となる。そこで今後は、老化が速筋と遅筋におけるAQP4とAQP1の関係性に及ぼす影響の違いを検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験を遂行する上で必要不可欠な試薬や抗体などの消耗品や機器の購入にあたり、キャンペーンを利用したことで当初予定よりも低価格で購入でき、効率的な助成金の執行が可能となったため。次年度使用額と合わせて、実験消耗品の購入にあてる予定である。
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