身体各部における巧みな動きは、末梢性の骨格筋機能よりも中枢性の神経系に影響されると考えられる。これまでに、疲労を惹起するような運動を行うと、力調節安定性を低下させることが報告されている。しかし、疲労困憊運動よる力調節安定性低下のメカニズムは不明なままである。本研究では、fMRIによる脳機能イメージング手法に着目し、疲労困憊運動が力調節安定性と脳活動動態に及ぼす関係性について検討することを目的にした。 本年度は、若年者を対象に疲労困憊運動を実施し、その前後にて掌握運動における力調節安定性と脳活動動態の変化を検討した。疲労困憊運動として、自転車エルゴメーターを用いて、8分毎に50Wずつ負荷を漸増させ、4ステージ目の200Wで疲労困憊になるまで続ける運動を実施した。試行前に右手(利き手)の最大握力(Maximal voluntary contraction: MVC)を測定し、10% MVCおよび50% MVCにおける力発揮調節テストを、疲労困憊運動の前後にて実施した。対象者は、20秒間の力発揮と20秒間のレストを挟んで、それぞれの強度を4セット行った。力調節安定性の評価には、掌握運動時におけるトルクの平均値および標準偏差から算出した変動係数(Coefficient variance: CV)を用いた。なお。力発揮調節テスト中の脳活動を3T MRI装置を用いて、T2*エコープラナー法によりBOLD信号を測定し、コントラスト統計量から力調節発揮時の脳活動賦活化動態を求めた。疲労困憊運動により、10 %MVC試行および50 %MVC試行のCVは有意に高くなった。しかし、疲労困憊運動の前後にて脳活動の有意な変化は認められなかった。これらのことより、全身的な疲労困憊運動による上肢の力調節機能の低下に脳活動は関与しない可能性が示唆された。
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