研究課題/領域番号 |
21K11413
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
小田 俊明 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (10435638)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 筋腱複合体 / 粘弾性 / 陸上競技 / バイオメカニクス / 動作学 / 競技力 |
研究実績の概要 |
陸上競技において,高競技力レベルでは,短距離走における筋パワーや中長距離走における呼吸循環器系といった主要な競技力の規定因子の機能向上が上限に達し,筋腱のバネ的な性質によって競技力が影響される可能性が報告されている(Uenoら,2018)が,明らかでない部分も多い.本研究では,トレーニングにおいて筋腱の特性に着目することが重要であるという仮説の基,特に高い競技力の陸上競技選手を対象に,vibration法を用いて筋腱のバネ的な性質(粘弾性)を計測し競技力や,走動作との関係を明らかにすることを目的としている.まず,昨年度前半において,測定に必要な筋力計や解析プログラムなどの解析システムを構築し,再現性や精度などの基礎的な実験を実施した.特に,解析プログラムは実験の条件によって,解析が困難になる(最小二乗法による計算ができない)条件が散見されたため,実験条件や解析プログラムにおける条件設定の変更などを実施し,選手の計測が実施できる準備をした.昨年度後半においては,実際の選手の測定を開始した.競技会の時期を見ながらコーチやスタッフと調整し,測定を実施した.昨年度において,短距離,中距離,長距離,跳躍の選手について合計で150名以上の測定を実施した.その結果,一例として,中距離選手においては,筋腱複合体の弾性(800Nの力発揮条件など),ならびに粘性と競技力との間に高い有意な相関が観察された.また,筋と腱を分離して弾性を解析した結果,筋の弾性が競技力と高い相関を示すことが明らかとなった.一方で,中距離と傾向が近いと考えられる長距離選手において,少し異なった傾向も明らかとなった.種目により,それぞれ異なった結果が明らかとなり,得られた成果の一部は学会発表や学位論文として公表した,また,今年度の公開準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度においては,かねてから準備段階にあった複数の大学での選手測定を実施することができた.また,それらの大学におけるコーチや教員の紹介により,オリンピック選手や日本記録保持者を含めた特に高い競技力をもつ選手の測定も実施できた.具体的には,短距離選手においては50名以上,跳躍選手が20名以上,中距離選手50名以上,長距離選手30名以上の測定をすでに終えることができた.計画では各種目30名を目安としているため当初の計画以上の進展がみられていると考えている.前半に,研究室における基礎的な実験により再現性や精度を確認し,研究協力者と共に解析プログラムの高度化を進めた.その後の各大学における測定においては,上記の人数の測定が可能となった.得られた結果から,競技力と相関が得られるものもあり,興味深い知見を得ることができている.一方で,相関が観察されないものの個人の走動作との兼ね合いが強いパラメータが予想されたため,その解析のための追加データ取得を実施している.また,力学的な指標として,弾性係数から算出した固有振動数についてより詳細な解析を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,競技力と相関が得られなかったパラメータについても,選手の走動作との関係について検討をする.また,今回中心に測定をしている全国大会出場以上の競技力が高い選手群に加えて,各地区インカレ出場レベルや,県大会出場レベル,統制群としての非陸上競技選手など,競技力の幅を持たせた測定を実施し比較することを実施する.また,選手やコーチのニーズとして,トレーニングとの関係を知りたいとの要望も強く,一部選手においては,測定パラメータの縦断的な変化を測定することを行う.また,今年度は,昨年度に得られたデータを用いて,粘弾性の変化が筋腱複合体の静的・動的筋力発揮機能におよぼす影響について有限要素シミュレーションを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請では老朽化した機材の新規購入を予定した額を希望したが,減額のため購入ができなかった.そのため,これまでの機材を有効活用すると共に,学外での実験回数を増やす研究計画の変更を行なった.加えてコロナ禍により,海外への学会出張ならびに研究打ち合わせができなかった.それらの変更に伴い,初年度使用額に変更が生じた.多くのデータを取得することができたため,来年度以降は,新たなデータ取得と共に,投稿関連費用などとして助成金を使用させていただく見通しである.
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