研究実績の概要 |
地域スポーツクラブ(以下,クラブと略す)の育成はスポーツ振興における政策的・学術的な重要課題とされてきた.だが,近年は解散クラブ数が大幅に増加し,クラブは持続的に成長することができず衰退傾向にある.クラブの成長・衰退について先行研究では,ミッションの形成過程が影響を及ぼすことが示唆されている.そこで,本研究ではクラブの成長・衰退がいかにして生じるか,そのプロセスをミッションの形成過程との関係から検討することで,クラブの成長に向けたミッションマネジメントの方策を検討することを目的とした.研究方法は,クラブ設立時から調査時までの時系列的過程(クラブヒストリー)の比較事例分析である.調査は成長事例と衰退事例の各1事例について,設立・運営に関与した人物(代表者,スタッフ,行政担当者等)に対する半構造化インタビューと関連資料(議事録やチラシ,政策文書等)の収集を行った.調査・分析の結果,クラブの成長・衰退には,地域住民の生活課題と密接に関わるものとしてミッションが形成されたか否かが決定的な影響を及ぼすことが明らかにされた.具体的には,生活課題に根差したミッションの形成が,設立後におけるミッションの形骸化の発生,リーダー及び運営スタッフのコミットメントの高低に影響を及ぼし,最終的なクラブの成長・衰退に影響を及ぼすという一連のプロセスが確認された.また,モデルクラブへの模倣的同型化により地域課題に根差したミッションの形成が阻害されること,クラブアドバイザーによる支援が地域住民間の活発な議論を可能とし,ミッションの形成に寄与したことが推察された.以上の結果から,クラブの成長・衰退は,ミッションの形成という設立初期段階のマネジメントのありようによって大きく影響されることが新たに明らかにされた.これを踏まえ,ミッションを適切に形成するためのマネジメント方策を提示した.
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