研究課題/領域番号 |
21K11442
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
熊倉 みなみ 群馬大学, 医学部附属病院, 医員 (20827571)
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研究分担者 |
荻野 祐一 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (20420094)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スポーツ化学 / アスリート / 脳科学 / 運動学習 / 減量 / トレーニング / 身体能力 / 運動ループ(皮質線条体回路) |
研究実績の概要 |
スポーツ科学と脳科学の融合研究を目指し、2014年よりプロボクサーを対象にして神経可塑性の探索研究を、いくつかの組織を束ねた組織のオーガナイザーとして研究してきた [研究登録: UMIN000017635] (プロボクサーの試合前後における脳密度変化と脳ネットワーク解析:スポーツ脳科学研究 デサントスポーツ科学 2019. Vol. 40. p189-195.[査読有り]; Ogino et al. Scientific Reports. 2021)。[Ogino et al. 2021]において、プロボクサーにおける体幹運動を制御する脳内の運動ループ(大脳皮質運動野から基底核に至るループ状回路)が試合前に強化されていることを、脳画像解析によって明らかにした。前研究で明らかに出来なかった「減量とトレーニング効果の分離」「脳内の脳適応性とトレーニング効果の因果関係」を解明すべく「運動ループ回路の強化がプロボクサーの定量的な身体運動能力向上と相関する」仮説を検証する事を目指していた。試合前1ヵ月前と試合直前(1週間以内)における運動機能測定と脳画像(磁気共鳴画像)を測定し両者の関係を調べる。併せて、試合前には減量を行う事から、空腹度や心理的ストレス測定を実施しする。また試合1ヵ月後も脳画像を取得し、選手生命を左右する慢性外傷性脳症(ボクサー認知症)の発症要因リスクを探索し、競技の安全性向上を目指した。コロナウィルスの世界的パンデミックにより、通常の診療と研究活動に影響が及び,脳機能画像撮影についても困難な状況であったため、症例集積の度合いは減少した。プロボクサーのトレーニング戦略の最適化、安全性向上に、脳科学的見地からエビデンスを加えることであったため公開された帝京大学・東京大学との共同臨床研究 (UMIN000017635)の事後解析研究を優先的に進捗させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要にも記載したとおり、本研究はプロボクサーを対象としているため、コロナウィルスの世界的パンデミックにより、通常の診療と研究活動に影響が及び、本研究対象アスリートと健康被験者も例外ではなく、脳機能画像撮影についても困難な状況であった。そのような環境下において、公開された帝京大学・東京大学との共同臨床研究 (UMIN000017635)の事後解析研究を、脳限界のメカニズムの理解と、あらゆる限界突破を可能にする技術の開発に取り組む「学術変革領域研究(B) 脳限界のメカニズム解明とその突破」との連携のためZoom会議を行い、該当施設の倫理審査(Institutional Review Board: IRB)から進捗していった。 前研究 (Ogino et al. 2021) では東洋アジアチャンピオンと日本チャンピオンを含む一流のプロボクサーの脳画像を獲得し、世界チャンピオンとの勉強会も開催してきた。我々の研究チームにはトップアスリートらと共に研究を遂行してきた経験と、継続的にプロボクシング選手へのリクルートメントを依頼できる信頼関係がある。また本研究は、プロフェッショナルアスリートとのコネクションを良好に保ち、信頼関係を築くことが必要であり、また彼らに実際のコーチングや減量、トレーニング(運動学習)について聞き取ることは、本研究のdata解析の上で必須である。その趣旨の元、元ミドル級世界王者竹原慎二選手にプロボクサーの運動機能向上について、アスリート人生における王座タイトルの持つ意味についてインタービューし、動画作成の企画に関わり公開された(https://youtu.be/cwi0Vn6TttY)。
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今後の研究の推進方策 |
試合前の戦略に関して、どのようなコンディション作りがどのような変化をもたらすか、試合相手のコンディションはどうであったか、試合結果にどのような影響を及ぼすか、双方を調べたものはない。さらに大スポーツ競技による怪我や後遺症 [慢性外傷性脳症、いわゆる“ボクサー認知症” (Koerte et al., 2015)] が大きな問題となっており、その対策へ科学的証拠が求められ、選手の将来への安全性を医学的に担保することを希求されている状況がある。試合の脳神経機能と構造の影響、可塑性を探り、効率的で戦略的なトレーニングへの科学的知見(どういう条件がどのような結果に繋がるか)を探索し、新たな理論と戦略(どういった食事や体重管理が、精神・身体維持・向上・試合結果に最適か)を確立すべきであると考える。解剖学的脳構造について、MRIの高磁場化によるプロボクサーの試合前後の脳構造画像を比較対象に解析ができる環境を整えており(7-Tesla MRI [自然科学研究機構生理学研究所に設置])、試合後の脳へのダメージがMRIで非侵襲的に(高磁場MRIで)検出可能かどうか、慢性外傷性脳症(Chronic Traumatic Encephalopathy: CTE)を予測できるのか、検出された場合と、認知機能との連関性、遅発的な症状を予測できるのか、等の新たな展望を持っている。本申請研究はヒトを対象とした前向き(介入なし・対象群有り)研究であるため、前研究で確立した研究組織を保持しており、引き続き多施設研究の研究オーガナイザー・リーダーとして研究を実施する。プロトコルも概ね前研究を踏襲できるが、ヒトを対象にする研究であるので「ヒトを対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に沿った運用を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの世界的パンデミックにより、通常の診療と研究活動に影響が及び、本研究対象アスリートと健康被験者も例外ではなく、脳機能画像撮影についても困難な状況であったため、症例集積の度合いは減少したため。
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