研究課題/領域番号 |
21K11456
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
大迫 正文 東洋大学, 健康スポーツ科学部, 教授 (60152104)
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研究分担者 |
中井 真悟 常葉大学, 健康プロデュース学部, 助教 (10825540)
藤川 芳織 昭和大学, 歯学部, 助教 (60805943)
柴田 俊一 北海道医療大学, 歯学部, 客員教授 (80187400)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ベクトルポテンシャル / 通電刺激 / 骨量維持 / 通電条件 |
研究実績の概要 |
昨年度実施したベクトルポテンシャル(VP)通電装置を用いた刺激実験によって、それに後肢懸垂に伴う骨量減少に対して抑制効果があることが認められた。その実験では、後肢懸垂群およびVP通電刺激群を設け、そのいずれも3週間、ケージ内で後肢懸垂した。VP通電刺激群はそれに加えて、30分/日、5日/週、3週間、通電刺激を行った。肢懸垂群に比べてVP通電刺激群の骨量は有意(P<0.05)に高い値を示した。その通電条件は交流、60mV、5A(装置への入力電流)、120mA、20kHzであった。今年度には、通電刺激のより有効な条件を求めるために、以下のような種々な条件下での効果を検証した。 まず、通電時間のみを変え、0(通電刺激なし)、15、30、60、90または120分の条件とした。その結果、15分では0分と同様に骨梁の破壊が進むが、60分以上で有意(P<0.05)な骨梁維持効果が見られた。その際、30分の刺激では有意ではなかったが、追試験により30分/日でも、有意な結果が得られた。次に、通電刺激の強さを変えて、その効果を検証した。VP装置では円筒形の装置内に発生する電場の強さを直接的に計測するのが困難なため、装置への入力電流を変化させ、1,3または5Aとして実験を行った。その結果、5Aが通電刺激なしの条件でより有意(P<0.05)に高い骨量が得られた。また、周波数は2、20または200kHzで比較したが、これも高い方が有効であることが認められた。 これらの実験でVP通電刺激は30分/日、5日/週という刺激の時間と頻度が必要であること、また、電流、周波数に関しては大きい方が有効であるという結果が得られた。本装置は周波数が大きい方が、装置が小型で済み、このことことから社会実装を視野に入れたときにコンパクトな形状の装置ができる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度には基礎研究として、VP通電装置の特性を明らかにするために、従来、通電刺激に用いられてきた鍼および経皮通電刺激法との効果を比較、検討した。ここにおいても、後肢懸垂したラットを用いて、大腿骨、脛骨および椎骨の構造変化を観察したが、詳細は以下の通りである。 まず、それぞれの骨の構造に及ぼす加重低減の影響についてみると、いずれの骨においても骨量の顕著な減少が認められた。後肢懸垂実験では、ラットの尾部をケージの天井から吊り下げた状態で飼育するため、脚は床に着かず、後肢(大腿および下腿)に対しては確実に加重低減となる。このことが大腿骨と脛骨の骨量減少をもたらしている。一方、ラットは日常的に四足歩行の姿勢をとるために、後肢懸垂状態では脊柱にかかる加重にそれほど大きな変化はない。しかし、後肢懸垂によって他の骨と同様に、骨量が減少した。これはその姿勢によって、脊柱起立筋や横突棘筋のような脊柱に付着する筋の緊張が低下したためと思われる。 このように後肢懸垂によって引き起こされる大腿骨、脛骨および腰椎の骨量減少に対して、鍼、経皮およびVP刺激装置のいずれも骨量維持効果があることが認められた。なお、経皮通電刺激はこれまでの研究により、通常の鍼通電刺激に使用される低周波治療器を用いると、体表からの刺激が皮下組織内を通る間に減衰し、骨まで到達できないことがすでに認められていた。そのため、直流電流に搬送波を合わせて、皮下の深部まで刺激が到達し得る装置を用いた。しかし、これらの結果は、骨の表面においてはいずれ部位、装置においても同様であったが、骨内部の骨髄および骨内膜に関しては、経皮<鍼<VPの順に有意な骨量維持効果が認められた。VP通電刺激装置は生体に鍼や電極を装着することもなく、単に生体を装置内置くだけで通電が可能となる。このような点にも、VP装置の安全性や有意性があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和5年度には、VP通電装置を用いて、その骨量維持効果の機序を解明するとともに、軟骨や関節包等の異なる組織への応用の可能性について検討する。これまでの本研究の結果から、後肢の加重低減によって大腿骨、脛骨および椎骨の皮質骨や海綿骨の骨梁表面に破骨細胞が多く出現し、骨吸収が活性化されることが理解された。一方、同様に加重低減を図ったラットにVP通電刺激を行うと、それらの破骨細胞に顕著な変化を生じることも認められた。本来、破骨細胞は骨の表面に付着し、大型で多核であり、骨表面の吸収窩に密着して、そこに無数の波状縁を延ばす。確かに後肢懸垂群では同様な構造的特徴を示す細胞が多数観察される。しかし、VP通電刺激群ではそのような典型的な破骨細胞は減少し、大型で多核であっても、骨表面から遊離した状態の前破骨細胞様の細胞が多く認められる。このことから、通電刺激は破骨細胞の構造を変化させ、吸収活性を低下する可能性がある。 以上のことから、通電刺激による破骨細胞の構造変化を手がかりに、通電刺激による効果の機序を検討していく。さらに、同様な加重低減とVP通電刺激の方法を用いて、関節軟骨や関節包の変化についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に実施した時間別のVP通電刺激の効果に関する実験では、骨量維持に有効な通電時間は30または60分以上であったため、それに続く電流別や周波数別の実験ではいずれの通電時間で行うべきかという判断が困難であった。そのため、電流別や周波数別の実験では、慎重を期すためにその両者の時間で実験を実施する予定であった。しかし、その後、15、30、60分/日の時間別効果について追試験を行い、30分/日で有意な効果が得られることが認められ、その結果、令和4年度における実験ではその通電時間でのみ実施した。このように、通電時間の条件を限定することによって、ラットの数のみならず、その分析に用いる各試薬も節約することができた。令和5年度においては、VP通電刺激の機序解明の実験を行う。その証明では通常の組織学的分析以外にも、免疫染色やPCR、in situ haybridyzationや、Elisaなどの方法によって分析する必要がある。これらの分析で使用する試薬類は非常に高価であるため不安であったが、令和4年度までの残額をそれらに充当することができ、有効に予算を利用できると思われる。
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