研究課題/領域番号 |
21K11458
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
西多 昌規 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 准教授 (10424029)
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研究分担者 |
塩田 耕平 金沢星稜大学, 人間科学部, 講師 (40638962)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 睡眠 / 身体運動 / リカバリー / コンディショニング / 睡眠慣性 / アスリート / メンタルヘルス |
研究実績の概要 |
本研究は、睡眠慣性とスポーツ関連の身体運動との関連を検討する。睡眠から覚醒後には、睡眠慣性(覚醒後のぼんやりした、覚醒度の低い状態)が残る。覚醒後から活動開始まで、どのくらい時間間隔が適切なのかについては、注意機能や認知機能についての先行研究は豊富だが、スポーツなど身体運動においては明らかではない。たとえば、日中に仮眠をとるアスリートも多いが、どれくらい寝たらいいのか、起きた後どれくらい時間間隔を置いて練習を始めたらいいのか、こういった問いに対する解答はいまだない。本研究では、仮眠後における睡眠慣性の変移と、身体運動能力の経時的変化を時間学・生理学的に実証することを目的とする。 具体的には、睡眠慣性による運動機能変化を解明するために、異なる時間枠の仮眠時間の介入条件を設定し、運動パフォーマンスの経時的変化を記録し、比較検討を行う。取り扱う運動種目は、スプリントやジャンプなど持久的・瞬発的な単純な運動と、巧緻な技術を要する機能を要するスポーツスタッキングを実験課題として採用する。運動パフォーマンスの評価と並行して、注意認知機能の評価も行う。運動の種類や仮眠時間によって、睡眠慣性からの回復過程は異なるのかも、明らかにしていきたい。 本研究の成果は、一般人の生活習慣だけでなく、アスリートの練習スケジュール策定に役立つものである。特に朝練習を日課としている運動部やアスリートは、睡眠不足や午後のパフォーマンス低下に悩んでいる。こういった人たちに対して、リカバリー(適切な疲労回復)の有効な戦略として、日中の仮眠の時間と仮眠後の練習開始の時間帯に対する有益なエビデンスを与えることができれば、現場にも貢献できると考える。ひいては、アスリートのパフォーマンス向上、コンディショニングへの寄与だけではなく、アスリートの良好なメンタルヘルスにも役立つ可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、本研究に関連する実験として、以下の2つの実験が進行中である。 (1)異なる仮眠時間による睡眠慣性が身体運動に与える影響の研究 (2)仮眠時間がスポーツスタッキングに与える影響の生理学的研究 *スポーツスタッキングとは、12 個のプラスチック製のカップを、決められた形に積み上げたり崩したりするスポーツで、そのスピードを競う。 2021年度は、両実験計画ともに申請者が所属する組織の人を対象とする倫理審査委員会によって承認された。(1)について、当初計画していた視覚的選択注意課題は、身体運動機能を評価する課題としては認知評価に偏っていると判断したため、本研究課題の主旨目的により合致させるために、純然たる身体運動パフォーマンス(ジャンプ、スプリント)を採用することとした。実験は順調に進行しており、実験参加者を15分仮眠群、60分仮眠群にランダムに割り振り、覚醒直後、覚醒からそれぞれ10分、20分、30分、40分、60分後において身体運動評価というプロトコールで行っている。実験参加者には、行動計を装着し、睡眠覚醒リズムを経時的に記録している。(2)の実験は、仮眠前後でのスポーツスタッキングのパフォーマンスを比較検討している。本研究の新規性は、仮眠中に脳波を同時記録し、異なる睡眠段階で覚醒させ、パフォーマンスを実施する方法がとられていることである。 (1)(2)実験計画ともに、脳波や行動計などによる睡眠や睡眠覚醒リズムの計測は順調に機能している。2022年度中には結果を解析し、学会発表の抄録作成、演題提出を予定している段階にあると判断している。スポーツ科学から認知科学・睡眠科学まで幅広い領域での文献資料収集・知見集積にも時間を充当していることを付記しておく。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度において、(1)(2)ともに実験参加者を15名、可能であれば20名という十分なサンプル数を確保した上で、結果の解析検討に入りたい。2023年度開催の学会発表の抄録作成、演題提出にもって行きたいと考えている。最終的には、学会発表でのフィードバックを容れて内容を修正しつつ、査読つき学術論文の作成につなげていきたい。 また、実験計画(3)として、睡眠不足によって変化する睡眠慣性がスポーツパフォーマンスに与える影響も考えている。これは、現在進行している実験(1)の予備実験において、睡眠不足の翌日の仮眠覚醒後の睡眠慣性が強まる現象が見られたために発生した、学術的な問いである。睡眠不足群と対照群とを設定し、睡眠慣性の日中の変化を追跡した上で、日中のパフォーマンス変化が記録できないか検討を行っており、2022年度は予備実験を行えればと考えている。 以上のように、概ね実験は順調に進行しており、本実験で生じた疑問に対する実験も検討できている状況である。研究期間内に、睡眠不足や日中の眠気、残遺する疲労感に悩む運動部など組織にカスタマイズした、戦略的な仮眠を取り入れた練習スケジュールの提言を目標としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた機器(脳波計)が別予算で購入可能になったことで、初年度に使用する金額が減少した。
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