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2022 年度 実施状況報告書

がん悪液質性心機能障害の病態生理の解明と運動および栄養介入による新規治療法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 21K11490
研究機関産業医科大学

研究代表者

上野 晋  産業医科大学, 産業生態科学研究所, 教授 (00279324)

研究分担者 野中 美希  東京慈恵会医科大学, 医学部, 特任講師 (60758077)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードがん悪液質 / モデルマウス / 心機能障害 / ユビキチン-プロテアソーム系 / 自発運動
研究実績の概要

ヒト胃がん細胞株85As2を移植することにより、骨格筋萎縮等のがん悪液質症状とともに心機能障害を伴う新たながん悪液質モデルマウスを用いて、引き続き心機能障害のメカニズムを検討した。実験にはBALB/cAJcl-nu/nu nudeマウスの皮下に85As2細胞を移植したものを用い、移植後2週目より回転かご付ケージ内で飼育することにより自発運動負荷群を作製し、同週齢での対照群、および85As2移植/非自発運動負荷群と比較した。
昨年度に見出した、85As2移植マウスの心筋で有意に発現量が増加し、その増加が回転かごによる自発運動負荷によって抑制されたE3ユビキチンリガーゼ関連酵素(Xと仮称)について、その基質として知られるタンパク質(Yと仮称)の心筋における発現量の変動を検討したところ、がん悪液質の進行とともにタンパク質Yの発現量は減少していた。このことから、85As2移植マウスの心筋では酵素Xを介したユビキチン-プロテアソーム系が亢進していることが示唆され、これによって心筋の萎縮が生じている可能性が考えられる。また低酸素状態の指標であり、がん悪液質に伴い萎縮する骨格筋で発現量が増加することが知られている低酸素誘導性因子(HIF)のサブユニットの一つ、HIF-1αについても心筋での発現量を検討した。その結果、85As2移植マウスにおいて有意に増加していることが判明した。
以上の結果から、85As2移植マウスにおける心機能障害の発症機序には、骨格筋萎縮と同様にHIFが活性化しているばかりでなく、酵素Xを介したユビキチン-プロテアソーム系の亢進が関与している可能性が考えられる。現在、HIFの活性化およびユビキチン-プロテアソーム系の亢進に対する自発運動負荷の効果についての評価、ならびに免疫組織学的染色による萎縮心筋標本の評価を行っている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究課題はヒト胃がん細胞株85As2を移植することで誘導される、心機能障害を伴うがん悪液質についての病態生理の解明、ならびに自発運動負荷およびそれに追加する栄養補助によるがん悪液質症状ならびに心機能障害への治療的効果を検討する計画である。病態生理の解明については標的となる物質が計画通り絞り込めてきているが、栄養補助の介入が未達成である。理由としては今年度も続いた新型コロナウイルス感染の拡大により、共同研究者である野中と、互いに各々の研究室を訪れての共同実験計画の遂行に支障が出ていたこともあり、栄養補助の介入よりも病態生理の解明を優先していたことによる。
最終年度となる今年度は栄養介入実験の準備を進めており、少なくともがん悪液質に対する栄養介入についてのデータが収集できる見込みである。また、85As2移植マウスの心筋ではユビキチン-プロテアソーム系の酵素X遺伝子発現量の増加とともにその基質となるタンパク質Yの発現量も増加していたことから、このユビキチン-プロテアソーム系が機能的に亢進している可能性を示唆する結果を得られたのは収穫である。さらにHIFが活性化していることから、HIFタンパク質もまた心機能障害のマーカーとして応用できる可能性が考えられるので、栄養介入の効果を評価する指標の一つに予定している。

今後の研究の推進方策

85As2細胞株移植により誘導されるがん悪液質症状ならびに心機能障害に対する栄養補助の効果を検討することを優先し、85As2移植/非栄養補助群、ならびに85As2移植/栄養補助群との比較検討を実施する。その際に心筋における酵素Xの遺伝子発現量とともにその基質タンパク質Yの発現量、ならびにHIFタンパク質発現量を評価し、自発運動負荷と同様に栄養補助の効果を評価するマーカーとなり得るかを検討する。実験にはこれまで以上にモデルマウスを作製する必要があるので、共同研究者の野中が所属する東京慈恵会医大と当方(産業医大)の両者でモデルを作製して実験を行う予定である。そのために実験機器を増設する必要があったが、令和4年度ですでに機器の購入を済ませており、準備は整っている。

次年度使用額が生じた理由

栄養介入試験の実施が遅れているため、マウスの購入費および飼育費への支出が当初の計画よりも少なかったことが主な要因である。次年度は計画通り栄養介入試験を実施するため、この使用額はマウスの購入飼育費への支出に充てることとし、さらに病態生理を詳細に検討するために、当初の計画には含まれていなかったRNAシーケンスの導入を検討中であり、この解析費用に充てることも考えている。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] がん悪液質モデルマウスに出現する心機能障害と自発運動負荷がもたらす治療的効果2022

    • 著者名/発表者名
      野中美希、柿木 亮、岸田昭世、大島佳織、後藤元秀、上園保仁、上野 晋
    • 学会等名
      第49回日本毒性学会学術年会
  • [学会発表] がん治療関連心血管疾患に対する治療法確立を目指して-腫瘍循環器学の発展とこれから-2022

    • 著者名/発表者名
      野中美希、上野 晋、細田洋司、上園保仁
    • 学会等名
      第96回日本薬理学会年会

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公開日: 2023-12-25  

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