研究課題/領域番号 |
21K11518
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大石 純子 筑波大学, 体育系, 教授 (50410163)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 武道思想 / 女性 / 近代 / 女學雑誌 / 巖本善治 / 香川輝 / 剣道 / 薙刀 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、武道思想の成熟発展過程の中でも、武道における技法の修練が人間修養という教育的側面と表裏一体として明確に考えられるようになるとともに、女性においても女子教育の興隆や多様な女性観の台頭が目覚ましかった近代という時代に焦点を当てる。そして近代武道論の中でも「女性」に関する言説が顕著に確認できる剣道、薙刀に着目する(大石2019・2020,井上1994)。以上を踏まえて、まず、①剣道家であった香川輝、山岡鉄舟、西久保弘道らの「女性」に関する言説について、その内容の解釈、それら人物の経歴や人脈を踏まえて、言説生成過程を解明し、そこから各人物における武道思想の形成において「女性」という要素がどのような影響を及ぼしたのかを明らかにする。次に、②薙刀指導者などであった巌本善治、星野慎之輔(天知)、美田村邦彦らの「女性」に関する言説もそれぞれ取り上げその内容の解釈、それら人物の経歴や人脈を踏まえて、言説生成過程を解明し、そこから各人物における武道思想の形成において「女性」という要素がどのような影響を及ぼしたのかについても明らかにする。それらの考察により、武道思想の近代化過程において「女性」という要素が果たしてきた役割について俯瞰的に解明することを目的とする。 2021年度では、雑誌編集者であり女子教育者でもあった巖本善治の言説を知る基本資料である「女學雑誌」に着目し武道思想と女性の関わりを探った。まず「女學雑誌」から武道関連の記事を抽出概観考察し、多くの巖本善治執筆の武道関連記事の中でも「武道の辨」が特に巖本武道論としてまとまっていることを把握した。武道学領域ではほぼ看過されてきた「武道の辨」に光をあてられた意義は大きい。「武道の辨」には、巖本善治の武道観や武道論が展開されており、「武道の辨」分析考察は、研究課題の解明に向け意義深いもとなることが推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度では、文献資料「女學雑誌」全巻入手により巖本善治に関する研究を前倒しで進めた。まず「女學雑誌」から武道関連の記事を抽出し概観考察しその成果は日本武道学会第54回大会において口頭発表した。この研究により「女學雑誌」の巖本善治執筆の武道関連記事の中でも「武道の辨」が特に巖本武道論として体系化されていることが把握された。そこで身体運動文化学会第26回大会では巌本善治の「武道の辨」の考察を深め発表した。また、本科研費研究以前から研究を進めてきており、本研究課題においても重要な位置づけにある香川輝に関する研究の成果を論文として発表することができた。加えて、「わざ」に関する研究プロジェクトの一端に加えていただいたことを通して、分担執筆の機会を得て、薙刀に関する論稿を発表することもできた。 以上の研究により、巖本善治言説を通して近代武道思想の形成における「女性」という要素の影響について解明しつつあるとともに、関連の武道思想への女性の影響についての断片的考察を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度において「女學雑誌」に掲載されている巖本善治により執筆された「武道の辨」が巖本武道論としてまとまったものであることが把握され、その解釈の一端を進めた。しかし、その論の形成において「女性」という要素がどのように影響を及ぼしていたのかの全容解明については課題として残されたままである。よって、2022年度の研究の具体的推進として、「女學雑誌」に掲載されている巖本善治により執筆された「武道の辨」の内容の考察をさらに進め、特に「女性」という要素が、巖本の武道論形成にどのような影響を及ぼしたのか細部の解明を進めていく。この考察を進めるにあたり、自身に武道修行の経験のなかった巖本に、武道の意義や価値を薫陶した人物と考えられる星野天地(慎之輔)との関係性や星野の言説分析も含めていく。彼らの言説は、明治初期に展開されたが、のちの時代の山岡鉄舟、香川輝、西久保弘道、美田村邦彦など、武道論関係言説において女性に言及した人物の思想にも影響した可能性もある。近代期の武道思想における「女性」という要素の影響の全体像の解明にあたり、巖本による「「武道の辨」の研究は重要である。
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