研究課題/領域番号 |
21K11519
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 裕央 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (50782778)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 野球 / 投動作 / 運動制御 / 正確性 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、環境適応学習パラダイムを用いて通常のピッチャーマウンドの傾斜(通常マウンド)に加え、マウンドの傾斜を急峻にすること(傾斜マウンド)で生じる適応過程でボールリリース位置と投球フォームをどのように調整して狙った位置に投げるのかを調べた。社会人野球レベル以上の投手を含む熟練投手群と非熟練投手群で比較した結果、非熟練投手は共通して傾斜マウンドで投げた際の学習過程における投球間の投球フォームのバラつき(ボールリリース時の前傾角および頭部の位置)が少なく、ボールリリース位置も比較的一定だった。一方、熟練投手は学習過程において投球フォームのバラつきが大きく、また、ボールリリース位置のバラつきも大きかった。しかしながら、最終的には通常マウンドとほぼ同じ位置でボールリリースしていたのに対し、非熟練投手は通常マウンドと同じ位置までリリース位置が変位することはなく、異なる位置でボールリリースが安定した。また、このように熟練投手は学習過程において投球フォームおよびボールリリース位置が非熟練投手よりもバラつきが大きかったにもかかわらず、制球力は非熟練投手よりも高かった。鉛直方向における投球位置はリリース時の球速と投射角でおおよそ決定されることが分かっているが、熟練投手は急峻な傾斜に慣れる必要のある学習過程においても、体幹部やリリース位置の変動に対応するようにこの球速と投射角の関係性を保ちながら投球することで高い制球力を示したのかもしれない。これは、以前に報告した小学生投手はボールリリース時の体幹部のバラつきが高校生、大学生投手に比べて大きく、制球力が低かったという結果と同じような傾向を示しており、狙ったところに安定して投げるにはリリース位置を一定に保とうとするのではなく、下肢や体幹部で生じたバラつきに応じて微調整することの重要性を示唆する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現状の進捗としては遅れている状況にある。被験者および実験場所を揃えることがなかなかできず、思うように実験を進められていないのが理由となる。令和5年度はまずは自由度が高く実験が行える場所を確保し、被験者の予定に合わせやすい状況を作れるようにしたい。また、本研究課題を進める過程で投球位置の計測方法に大きな課題が生じた。申請者はこれまでも映像を用いた方法で投球位置の計測を行っていたが、本研究課題を行うにあたり各被験者の投球位置をより正確に捉えるには投球数を増やすこと、何回か計測することで被験者内における投球のバラつきがどの程度あるのかについて把握する必要があることを確認し、以前よりも分析する投球数が増えることとなった。そのため、これまでの方法ではデータ解析にかなりの時間を要してしまい、研究の進捗が遅れる要因の一つとなった。この問題を解決する対策方法について検討をしなければならないが、現状まだ具体的な解決策には至っておらず、引き続き検討しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも述べたように、まずは投球位置データの解析方法を改善させ、作業の効率化を図る必要がある。trackmanやrapsodoといった計測機器を用いることもひとつの解決策だが、高価な機器のため現状購入することは難しく、現在用いている映像を用いた解析方法を模索しなければならない。まずは、上半期でこの点について解決策を見出し、作業効率を高める。この問題をクリアした後、研究課題3の被験者数を増やし、研究課題4および2について実験計測を進め、データ解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍がかなり落ち着いてきたとはいえ、被験者を学外の野球経験者に行ってもらう必要があるため、なかなか被験者を募ることができなかったことが要因としては大きい。また、マーカーレスのモーションキャプチャシステムの購入を予定していたのだが、取扱が海外業者であったこと、また、業者が生産を一時的に中止したため計画していた物品を購入することができず、これも実験の進捗に影響を与えてしまった面もある。 現在、その機材の取り寄せについて対応を進めており、令和5年度に購入をして実験を進めていきたい。
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