本年度は2021、2022年度の成果をふまえて、まず、「純粋な学問(理論)内容としての参照基準」作成について、近接領域である教育学、心理学の「参照基準」との比較検討及び体育学との関連について検討した。分析は、「分野の定義・特性」という観点から主として行われた。まず、教育学に固有の特性としては、①人間と社会の可変性への関心、②研究アプローチの多様性(規範的・実証的・実践的)、③技術知と反省知の両面性、④再帰性(自己を対象とする性格)、⑤他の諸科学との協働といった点があげられる。次に、心理学では、①人間の心について科学的探究をめざす、②学問知とフィールド知を双方向的に探究する、③心理学が直面する社会的諸課題に応える、④諸学の要としての役割、⑤人間の行動の普遍的事実の解明、⑥人間の複雑な特性を捉える役割があげられている。 さらに、コーチング学の学問的上位概念となる体育・スポーツ学の「参照基準」では、①基礎科学(研究方法的特性)と実践科学(研究対象の特性)の複合体、②学際的総合科学、③身体運動を基点とする視座、④体育とスポーツの正の連鎖の創出といったことが学問的特性として示されている。次に、本研究の考察対象であるコーチング学について見てみると、①練習(トレーニング)と指導に関する一般理論である、②競技スポーツに限定することなく教育・健康・レクリエーションなどの多様な目的で行われる広義のスポーツが対象となる、③既成科学の研究成果を応用して用いるのではなく、スポーツの現場で獲得された個別的・経験的な知見を帰納的に集約することによって理論化するといった点に特徴が見られた。 以上のことから本研究課題のまとめとして、コーチング学の学問的特性をふまえると、その教育プログラムには一般論構築のためには、個別種目における現場からの帰納的な実践知、身体知の体系化と評価が求められることが明らかにされた。
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