研究目的の一つである形容詞「最大の」と運動行動に関連した単語(動詞)との暗示連合学習が無自覚的目標指向性行動に与える影響を調べた結果、「発揮(する)」などの身体運動の概念を持った行動目標(条件刺激)が閾下呈示され、それらが閾上呈示の前向き形容詞のひとつである「最大の」(無条件刺激)との対呈示(遅延条件づけ)は、条件刺激によって誘発される瞳孔拡張を伴った素早く力強い運動とその持続性を消失させることがわかった。つまり、「最大随意筋力を発揮する」の行動目標が望ましくない状態で心の中に内在していたことが心理的抑制要因の一つであると推測される。これは最大随意筋力測定時の測定される者の潜在知覚に焦点を当て,無自覚的に働く心像の痕跡を客観的に示した最初の研究である。 一方、シャウトが最大筋力を増加させる原因を調べてみると、シャウトが最大随意筋力を増加させ、Silent period (SP)を短縮させることがわかった。一般に、100 ms 以上のSP時間の変化は皮質内抑制の変化を反映しており、特に一次運動野(M1)の皮質内抑制の指標として使われてきた。なぜなら、SP時間の変化はM1内のGABAB-ergic circuitsによって生み出され、その起源が大よそM1であると考えられているからである 。したがって、シャウトによるSP時間の短縮はシャウト自体の運動指令がM1皮質内抑制を低減させたことを示している。つまり、シャウトによって心理的抑制(Ikai & Steinhaus、1961)が取り除かれるというよりはむしろ、シャウトに関連した運動指令のM1への追加的入力であることが示唆された。以上の研究成果は3つの国際誌で出版されている。
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