本研究の目的は、知的障害児・者が道具を観察している際の脳活動を計測することにより、そうした脳活動が彼らにおける道具操作の特徴と、どのような関係にあるのか明らかにすることであった。しかし、新型コロナウィルスの感染状況が未だ収束しなかったことや、その他の計測環境上の問題が解決しなかったこともあり、行動指標による知的障害児や定型小児の観察学習の実態についての検討も併せて行った。主な研究成果は以下の通りである。 1)知的障害児における観察に基づく事物の分類行動の学習について検討したところ、厳密な意味で観察学習が成立する者は少なく、事物の特定の次元に基づく分類を先に観察した行動に関わらず行う者が多かった。一方、特定の課題では、課題の最終的な目的とは関係のない他者の動作を模倣しようとする者が稀ならず認められ、いわゆる過剰模倣が生じている可能性が考えられた。 2)積木構成課題において、成人によって示されるモデルが与える効果について、1~2歳の定型小児と知的障害児に対する年齢縦断的な測定を行った。その結果、成人が構成したモデルに自らも積木を重ねるclosing-in現象に類似した反応が優勢に現れる時期があることが明らかとなった。 3)特定の球技に習熟することが、道具観察やタイミングを見積もる際の脳活動に及ぼす影響について検討した。バスケットボール競技者と非競技者に対する一連の測定の結果、バスケットボール競技者特有のタイミングの見積もりが認められた。一方、バスケットボールを観察することによる運動関連領域の脳活動に、群間で明らかな差は認められなかった。
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