本研究では、軽-中強度での短時間の細切れ運動がその後の心理生理状態、実行機能および作業パフォーマンスに及ぼす影響を運動スキルの影響も含めて検討することを目的とした。(1)クローズドスキル(CS)とオープンスキル(OS)の要素を取り入れたラダーを用いた運動を10分間までのいくつかの短い運動時間でそれぞれ単回実施した結果から、運動スキルがその後の実行機能や認知的作業パフォーマンスへ及ぼす影響は明らかでないが、10分間の運動の場合において、覚醒度への影響は異なり、OS運動で覚醒した状態が維持される可能性が示唆された(令和3・4年度)。(2)仮想空間のリズムゲームのプレィ動画を用いて、現実空間でOS要素の強い運動プログラム、その運動プログラムと運動の強度や量が同じになるようにしたCS要素の強い運動プログラムを作成して、それらが実行機能の下位機能である抑制機能、作業記憶、および認知的柔軟性などに及ぼす影響を検討した。実験は、CS運動条件、OS運動条件、および運動を行わず安静を保つ対照条件の3つの場合を日を変えて同一被験者内では同じ時間帯に行った。1回の運動時間は10分間とし、日中に約1時間毎に3回実施した。実行機能検査には、ストループ・カラーワード・テストとタスクスイッチング課題を用いた。その結果、運動スキルは、運動後の抑制機能および認知的柔軟性には影響しないことが示唆された。一方で作業記憶については運動スキルによる違いが認められ、CS要素の強い運動を行った場合に比べてOS要素の強い運動を行った場合の方が、運動後の作業記憶が一時的に高い傾向にあることが示唆された(令和5年度)。以上のことから、運動の方法や時間帯などさらに検討が必要ではあるが、日中に短時間の運動を細切れに行うことがその後の実行機能、さらには作業や学習のパフォーマンスに及ぼす影響に運動スキルが影響する可能性が示唆された。
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