研究課題/領域番号 |
21K11572
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小林 由直 三重大学, 保健管理センター, 教授 (70378298)
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研究分担者 |
江口 暁子 三重大学, 医学系研究科, 特任准教授(研究担当) (00598980)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小児肥満 / 細胞外小胞 / メタボリック症候群 |
研究実績の概要 |
わが国では就学時年齢における男児の約6%から12%、女児の約6%から8%に肥満が認められる。小児肥満は、低年齢からメタボリック症候群を合併し、高頻度に成人の肥満に移行することが大きな問題となっている。我々は、これまで成人において血中細胞外小胞(EV)が様々なメタボリック関連因子と関連することを明らかにしてきたが、今年度は肥満小児を中心に血中EV数と肥満に関連するさまざまなメタボリック関連因子との相関を、横断的に検討した。 我が国において小児体型を評価するために標準的に使用される小児肥満度を算出し、標準体型、軽度肥満、中程度肥満および高度肥満に分類された小児(年齢中央値 10歳)から血液サンプルを採取し、小児肥満度、体組成、血圧、肝機能、脂質・糖代謝を含む各種メタボリック関連パラメーターを測定した。 Calcein M染色及び蛍光フローサイトメトリー法を用いて血中EV数を測定し、EV数と各種メタボリック関パラメーターとの相関を検討した。 スペアマン解析において、血中EV数は、小児肥満度、体脂肪量、拡張期血圧 、ALT、中性脂肪 、HOMA-IR などと有意な正の相関を示した。また、クラスカル・ウォリス解析において、標準体型群、軽度肥満群および中等度肥満群の血中EV数は、高度肥満群に比べ有意に高値であった(正常体重群 vs. 高度肥満群 P<0.01, 軽度肥満群 vs. 高度肥満群 P<0.01、中程度肥満群 vs. 高度肥満群 P,0.05)。さらに、重回帰分析を用いた多変量解析において、いくつかのパラメーターが血中EVと相関する独立因子として同定された。 これらの結果から、小児の血中EV数は小児肥満度と相関し、血圧、肝機能障害、脂質代謝および糖代謝の異常を含むさまざまなメタボリック状態を反映するバイオマーカーであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度として、小児の臨床データ取得及び血液サンプル採取を行い、血中EV数を測定した。空腹時インスリンなどいくつかのデータはELISAを用いて測定した。その結果、血中EV数と多くのメタボリック関連パラメータが有意に関連することを示すことができ、横断研究は概ね順調に進んでいる。 治療介入による肥満の改善と血中EVの変化を検討する縦断研究については、新型コロナウイルス感染症の流行により、予想したよりも入院患者数が少なく、有意差検定が可能な症例数には達しなかった。この縦断研究については、次年度以降も引き続きデータ及び血液サンプルの収集を続けていく。 現在、網羅的プロテオミクス解析を行うため、解析対象となる症例の選定及び血液からEVの精製を行っており、解析に向けたサンプル調製を進め、概ね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
横断研究でこれまで得られた血液サンプルを用いてEVの網羅的プロテオミクス解析を行う予定である。現在、解析対象となる症例の選定及び血液からEVの精製を行っており、解析に向けたサンプル調製を進めている。プロテオミクス解析により肥満の程度によって発現量に有意差のあるタンパクを同定してヒートマップを作成し、さらにタンパク質同士の相互関係をプロテオミクス解析ソフトなどを用いて明らかにしていく。 また、精製したEVのサイズ測定、EVマーカーとしてのタンパク質、および臓器特異的タンパク質の抗体を用いたウエスタンブロットを行い、血液中に放出されるEVの性格及び由来臓器を明らかにする。 縦断研究においては、データ及びサンプルの収集を継続し、肥満改善効果と血中EVとの関連を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、蛍光染色のための試薬やEV精製に関係する費用が主であった。体組成を含む各種身体データは、既に所有している器機を用いて測定した。また、電子カルテからの取得した血液データの多くは保険診療の範囲内であり、数項目のみELISAを用いて測定した。このため次年度使用額が発生したが、繰越金は次年度に予定しているウエスタンブロットで使用する各種抗体やプロテオミクス解析に関連する試薬等を中心に使用する予定である。
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