研究課題/領域番号 |
21K11572
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小林 由直 三重大学, 保健管理センター, 教授 (70378298)
|
研究分担者 |
江口 暁子 三重大学, 医学系研究科, 特任准教授(研究担当) (00598980)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 小児肥満 / 細胞外小胞 / メタボリック症候群 / プロテオミクス解析 |
研究実績の概要 |
前年度において、肥満小児を中心に血中細部外小胞(extracellular vesicke, EV)数と肥満に関連するさまざまなメタボリック関連因子との相関を横断的に検討した。その結果、小児の血中EV数は小児肥満度と相関し、血圧、肝機能障害、脂質代謝および糖代謝の異常を含むさまざまなメタボリック状態を反映するバイ オマーカーであることが明らかとなった。特に多変量解析において、小児肥満度と中性脂肪値が血中EV数を決定する独立因子として検出された。 今年度は、精製カラムを用いて血中よりEVを精製し、nanoparticle tracking analysis (NTA)法を用いてEVの測定を行った。その結果、肥満小児のEV直径は正常小児のそれに比べて有意に増加していた。また、精製EVにおいてウエスタンブロット法を行い、CD9などのEVマーカー、脂肪細胞及び肝細胞由来のEV蛋白を検出した。 さらに、小児肥満度によるカテゴリーで正常体重または中程度肥満と判定された小児EVのプロテオミクス解析を行なったところ、多くの蛋白が有意に増加あるいは減少していることが明らかになった。これらのEV蛋白には、細胞内輸送、蛋白折りたたみ、酸化ストレス、アポトーシス、白血球や血小板の活性化、自然免疫など多彩な生物学的機能を持つものが含まれており、糖・脂肪代謝、骨格筋および心筋の発達、炎症及び免疫系に関与する蛋白等が多数同定された。 現在、ウエスタンブロッティングやプロテオミクス解析の結果に基づき、変化のあったタンパク質を中心に小児肥満における全身臓器の生物学的プロセス及びメタボリック関連代謝の変化について包括的にまとめる作業を行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度には、小児の臨床データ取得及び血液サンプル採取を行い、血中EV数を測定した。空腹時インスリンなどいくつかのデータをELISAを用いて測定した。 それらの結果、血中EV数と多くのメタボリック関連パラメータが有意に関連することを示すことができた。 今年度は、横断研究における解析対象となる症例の選定及び血液からEVの精製を行ってEVサイズの測定、ウエスタンブロッティング及び網羅的プロテオミクス解析を行った。その結果、肥満小児におけるEV径の増加、由来臓器に関係する蛋白の検出、肥満によるEV成分蛋白の有意な違いを見出すことができた。これらの結果により、横断研究は概ね順調に進んでいると考えている。 一方、治療介入による肥満の改善と血中EVの変化を検討する縦断研究については、新型コロナウイルス感染症の流行により、予想したよりも入院患者数が少なく、今年度も有意差検定が可能な症例数には達しなかった。縦断研究については、次年度以降も引き続きデータ及び血液サンプルの収集を行い、解析を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、横断研究による網羅的プロテオミクス解析と検証をさらに進める。さらに、同定した特定のタンパクの機能について、培養細胞などを用いた実験で分子メカニズムを明らかにしていきたい。 縦断研究においては、食事や運動により減量に成功した小児を中心に、治療の前後で血中EV数やEV蛋白成分の変化を比較解析し、肥満の解消による全身臓器における生物学的プロセスの改善効果を、EVを通じて明らかにしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
EV数やEVサイズの測定、ウエスタンブロッティングは、学内共同施設など既存の機器を用いて実施することができた。またプロテオミクス解析において、研究者の協力により高性能の解析機器を使用することが可能となり、解析費用が予定よりも大幅に抑制された。 次年度は、引き続き行うプロテオミクス解析関連費用に加え、同定したタンパクの生物学的的機能を解析するための細胞実験などに関する費用(培養細胞、培養関係試薬、特異抗体など)、得られた研究成果の学会発表や論文投稿に関する費用などを中心に使用する予定である。
|