研究課題
新型コロナウイルス感染症は肺や気管を中心とする急性炎症のほかに、軽度の症例であっても、およそ10%の患者に腹痛や、嘔吐、下痢といった消化器症状が頻繁することも特徴である。また後遺症を訴える患者では実に20%の患者で胃腸症状が観察されることが報告されている。COVID-19は主に呼吸器系の疾患であるが、新型コロナウイルス感染において、その感染に腸内細菌叢がどのように影響するのか、またCOVID-19感染症の発症にどのように関与するのかは不明な点が多い。これまでの解析では、健常者、免疫不全を患うHIV罹患者を対象に、SARS-CoV-2感染による腸内細菌叢の変化とその病態進行について相関解析を行った。SARS-CoV-2感染によって共通してCOVID-19発症直後から、Clostridia綱に属する短鎖脂肪酸産生菌の顕著な減少や、日和見病原菌の増加が観察された。特にHIV罹患者では健常者に比べ、この傾向が増して観察され、この変化は発症から1ヶ月以降でも続いていることが判明した。おそらくこれらは免疫学的な脆弱な体内環境下では細菌叢の変化がより大きく、また健常者に比べ回復しにくい傾向があることが考えられた。この背景には慢性的な炎症を持つHIV罹患者は、加齢性の基礎疾患の保有率が高く、特にCD4陽性T細胞数が低い場合や、血中HIV粒子数のコントロールが不完全の場合、COVID-19の重症化リスクが高まる可能性が知られており、感染による免疫学的効果が大きいことが考えられた。ワクチン接種は新型コロナウイルス感染症の脅威を幾分軽減することが可能となったが、ワクチン接種は個人差がありながらも副作用などの弊害も報告されている。そこでワクチン接種による免疫学的変化と共生細菌叢の影響を理解するため、mRNAワクチンの3回接種の時点における鼻腔細菌叢の変化について解析を行なっている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的であったSARS-COV-2感染による腸内細菌叢の変容について、一定の理解が得られた。それらの成果の論文発表を計画的に進めている。
現在mRNAワクチン接種による鼻腔の免疫学的変化と共生鼻腔細菌叢の相関について解析を進めているが、知見の拡充に努める。
研究成果の最終的な総括と学術英文論文の投稿および発表の必要があるため、残額を使用する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
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