研究課題/領域番号 |
21K11607
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
高田 尊信 金沢医科大学, 総合医学研究所, 講師 (20515308)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 終末糖化産物 / 心筋細胞 / Crude AGE pattern / Diverse AGE pattern / Multiple AGE pattern / 質量分析 / 1アミノ酸残基結合型 / 2アミノ酸残基結合型 |
研究実績の概要 |
心筋細胞にグリセルアルデヒドを添加することにより、拍動低下と細胞死が引き起こされることをすでに報告している。これらの現象がグリセルアルデヒドの添加により引き起こされることを証明するために、カルボニルトラップ原理で、グリセルアルデヒドあるいはその誘導体と結合する性質をもつ、アミノグアニジン前処理を行い、グリセルアルデヒド添加を行っても、拍動低下と細胞死のいずれも起きないことを明らかにした。前年度において、心筋細胞に対するグリセルアルデヒド添加により、Heart shock protein (HSP) 90-betaにおいて、高分子化したHSP90-betaが観察された。Western blot解析により分子量210 kDa前後であることは明らかとなったが、その機序は不明である。しかし、試料を変性させて、Western blot解析していることから、ジスルフィド結合ではない、共有結合によりHSP90-betaが、ホモ二量体あるいは他のタンパク質と架橋構造をもった可能性が高い。この架橋構造は、グリセルアルデヒド誘導体に由来する低分子化合物により形成された可能性は高い。2023年度当初は、この解析を質量分析を中心に行う予定であった。しかし、研究代表者は、グリセルアルデヒドに由来するAGEsへの研究アプローチを大きく変えた。1種の糖代謝副産物(例:グリセルアルデヒド)から多種多様なAGEsが生成しうる点、糖代謝副産物とタンパク質の修飾の組み合わせの複雑さを、Crude AGE pattern、Type 1 Diverse AGE pattern、 Type 2 AGE pattern、Type 1 Multiple AGE pattern、Type 2 Multiple AGE patternとして分類し、これに基づいて、改めて質量分析を用いた解析のための、準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
従来の着想では、心筋細胞にグリセルアルデヒドを添加したときに、Toxci AGEsと命名されたAGEs(TAGE。構造は、2024年4月現在でも不明)が生成する点にのみ着目し、心筋細胞に生じる現象とTAGEの生成にちての相関にみから、現象を解釈しようとしていた。しかしながら、実際には、膵管上皮細胞を用いた実験によって、グリセアルアルデヒドからは、少なくとも「TAGEではないAGEs」が3種類(MG-H1, GPAP, Argpyrimidihe)も生成することが証明されており(Lakmini Senavirathna et al. Cells 10(5):1005, 2021)、自らの研究計画に修正が必要であると考えた。研究代表者は、TAGEが「2アミノ酸残基結合型」の構造をしていると推測していた。 しかし、仮にTAGEがHSP90-betaに修飾していたとしても、その修飾が「分子間結合」のみであるとは考え難く、むしろ「分子内結合」と同時に進行している可能性が高い。また、HSP90-betaを含め、特定のタンパク質に対してTAGEのみが修飾するということは考えにくく、むしろ、他の種類のAGEsの結合が起こりえるなかで、多種多様なAGEs構造が胸像している可能性が高い(Takanobu Takata et al. Metabolites 14(1): 3, 2024)。 この着想のもと、次年度は、TAGEの生成量あるいは特定のTAGE以外のAGEs修飾の可能性を抗体や質量分析により解析する。 すでにグリセルアルデヒドから生成することが証明されたMG-H1、GLAP、Argpyrimidineは「1アミノ酸残基結合型」であるので、分子間あるいは分子内結合には寄与しないが、分子内結合をしている可能性を、次年度において、抗体および質量分析を用いて、証明する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)質量分析により、HSP90-betaに結合した「1アミノ酸残基結合型」のAGEsの種類(例:MG-H1, CEL, Argpyrimidineなど)を同定する。AGEs修飾を受けたペプチドを解析することにより、研究代表者が令和5年度において論文発表した、「AGEsの修飾パターンの分類方法(Crude AGE pattern, Type 1 AGE pattern, Type 2 AGE pattern, Type 1 Multiple AGE pattern)」に基づき、心筋細胞内の拍動や細胞死に関連するタンパク質に、様々なAGEs修飾に生じていることを証明する。(2)架橋構造部位を同定するため、アブカムの抗HSP90抗体と抗HSP90-beta抗体の結合部位を調査し、その情報をもとに、当該アミノ酸配列に標的をしぼって、現在、知られている「2アミノ酸残基結合型」のAGEsの構造を、質量分析解析ソフトのデータベースに入力した上で、質量分析を行う。これにより、実際に架橋を形成しているAGEsを同定する。これにより、研究代表者が提唱したType 2 Multiple patternの存在を証明する。 (3)心筋細胞内に様々な種類のAGEsが生成・蓄積する現象が、オートファジー阻害と関連があることを証明するために、LC3の制御に関わるAtg7とBeclin-1の発現をタンパク質レベルで解析する。これにより、現在、グリセルアルデヒド添加した心筋細胞で観測されるLC3の減少が、「オートファジー過剰亢進」の結果生じたものではなく、「オートファジー阻害」によるものであることの証明とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の当初の研究計画では、Toxic AGEs(TAGE。構造は不明であるが、ポリクローナル抗体によりその存在は、すでに証明されている種)のみに着目し、心筋細胞内に生成・蓄積するTAGEの量やTAGE修飾タンパク質の解析を行う予定であった。しかし、「グリセアルデヒドから生成しうる、他の種のAGEs(MG-H1、GLAP、Argpyrimidineなど)をも解析することとし、抗体および質量分析を用いた実験により、それらAGEsの同定および定量を実行する必要が生じた。質量分析は外部委託する予定だったが、解析における条件設定に時間を要したため、令和5年度のうちには、解析の委託をすることができず、未使用額が生じた。次年度において、質量分析による心筋細胞内の各種AGEs解析に使用する予定である。 また、研究成果を論文投稿し、論文掲載料金(APC)にも使用する予定である。
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